東京高等裁判所 昭和35年(ラ)460号 決定
抗告理由の要旨は、抗告人は原審において執行債権者である相手方と示談交渉に入り、その同意を得た上昭和三十五年六月六日原裁判所に対し、目下示談中につき収去決定を猶予されたい旨書面を以て上申したにもかかわらず、これを無視して発せられた本件建物収去決定は違法である、というにある。
記録によれば、昭和三十五年六月六日付で抗告人主張のような上申書が原裁判所に提出され、同書面には右に同意すると附記して債権者代理人の記名押印のあることが認められる。右書面は、その趣旨によれば、執行債権者において示談交渉中強制執行を一時猶予することを承諾した旨を記載した書面と解すべく、かような書面は、字義の上では執行債権そのものについて義務履行の猶予を承諾したものとはいえないように見えるけれども、かような強制執行の一時の猶予に関する執行債権者と執行債務者との間の合意は有効であり、これを有効であると解すべき以上、右書面もまた民事訴訟法第五百五十条第四号にいう義務履行の猶予を承諾した旨を記載した証書に準ずべきものというべきである。従つて債務者がかような書面を提出したときは裁判所は強制執行を停止すべきであり、これを無視して建物の収去を命じた原決定は早きに失したものであるけれども、相手方代理人が当審において提出した上申書の記載によれば、抗告人と相手方との間の示談は不調に帰し、現在においては、抗告人はもはや相手方より強制執行の猶予を得ていないことが明らかであるから、原決定は結局相当である。
(川喜多 小沢 位野木)