東京高等裁判所 昭和35年(秩ほ)4号 決定 1960年8月18日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の理由は抗告代理人青柳盛雄外十六名提出の抗告書及び抗告理由補充書と題する書面記載のとおりであつて、その抗告理由として掲げるところは、先ず、勾留理由開示期日における実状と経過の概要を述べた上、原決定には第一点乃至第六点にわたる法令違反があり、取消しを免れないというのである。しかしながら、その第一点及び第二点において主張するところは要するに、抗告人の本件所為は適法な忌避原因の陳述に過ぎず、法廷等の秩序維持に関する法律第二条第一項後段に該当しない本来対象外の行為で、なんらの制裁をも科せられるべきではない。したがつて、原決定は不法に同法を適用して弁護権を違法に侵害したものであり、かつ右法条の解釈適用を誤つたものであるというに帰するのであるが、原決定の掲げるごとき抗告人の発言は、もとより適法な忌避原因の陳述の範囲を逸脱し、右法律第二条第一項後段に該当することは明らかなところであるからこの点に関する所論は到底採用し難い。次に第三点につき按ずるに、本件勾留理由開示公判記録を精査しても、原決定の措置が所論のごとく法廷等の秩序維持に関する法律による制裁権を濫用したものとは認め難いところである。第四点については、法廷等の秩序維持に関する法律がその違反行為に対する制裁を科する裁判についてこれを非公開の法廷において決定をもつてなすべきことを規定していることは所論のとおりであるが、右は民主社会における法の権威確保のため法廷等の秩序維持並びに裁判の威信保持を目的とする建前から同法律第二条第一項所定のごとき所為を規制せんとする要請に出たものであり、その科すべき制裁も監置若しくは過料というがごときいわゆる行政罰に過ぎないのであるから、これが裁判手続を非公開非対審とし、制裁を科する裁判を決定をもつてなすなべきものとしたとしても決して所論のごとき憲法の条規に違反するものとはなし難いのである。第五点については、記録(昭和三十五年(秩ろ)第四号法廷等の秩序維持に関する法律による制裁事件記録)を精査しても原決定が抗告人に対し制裁を科する裁判手続において補佐人に相当な補佐をつくさせないで制裁を科する裁判を強行した違法はなく、また第六点は、要するに原決定の処分が重すぎるというのであるが、右は適法な抗告理由とはなし難いのみならず、原決定の措置はもとより憲法第三十一条に違反するところはないから、この点に関する所論もまた採用し難い。以上本件抗告はその理由がないから、法廷等の秩序維持に関する規則第十八条第一項に則りこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 坂井改造 判事 山本長次 判事 荒川省三)
<以下省略>