大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)146号 判決

一、特許庁における手続の経過等及び審決理由に関する原告主張の一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証とによれば、原告の本願商標は指定商品を旧類別第四三類饅頭として出願せられたものであり、その構成は別紙商標見本のとおりのものであつて、「平和台饅頭」の文字を角ゴシツク体で縦書してなるものであつて、「饅頭」の文字については権利不要求の申出がせられているものである。

三、審決は、右原告の本願商標をもつて旧商標法第一条第二項所定の特別顕著の要件を欠くものとして、その登録を拒否すべきものとするのである。そこで以下右審決の当否について検討する。

本願商標の要部とせられる「平和台」の文字は、福岡市大名町無番地にある西鉄球団の有名な野球場の外、陸上競技場、軟式野球場とラクビー場とを兼ねた球技場、庭球場、排球場等を含めた福岡市営の競技場の名称からこれを採択したものであること原告の自認するところであり、右「平和台」の名はプロ野球の球場として国内にあまねく知られているところである。

従つて同所ないしはこれが存在する福岡市において、生産され販売せられる商品について、 その容器、包装等に「平和台」の名を冠することはその産地、販売地を表示するものとして、普通に行われ得る性質のものと認められ、従つて右「平和台」の語を要部とする商標が、前記のような福岡市ないしは平和台の競技場において生産され販売せられる商品に附せられたとしても、それが単に通常用いられる程度の態様で表示せられている限りにおいては、該商標は自他商品識別の機能を営み得ないものと認めざるを得ないところであつて、この意味においても右のような商標は特別顕著の要件を欠くものといわなければならない。そして本願商標の指定商品である饅頭が、福岡市内において、また前記の競技場において、その競技の都度開設せられる売店において、販売せられる性質の商品であることはいうをまたないところであり、また本願商標の態様が、単に普通に用いられる程度の方法で表示せられたものにすぎないことは後に説明するとおりであるから、この意味において本願商標は特別顕著の要件を欠くものと認めざるを得ない。

従つてこれと結局趣旨を同じくする本件審決は相当であり、その取消を求める原告の請求はこれを認容することはできない。

四、(一)、原告は本願商標は「平和台饅頭」の文字を普通の書体でなく、特殊の角ゴシツク体で極めて明瞭に縦書したものであり、商標と見られるような方法で特に表示せられているから、この商標自体の構成から特別顕著性が生ずるものと主張する。しかし、本願商標に見られる程度の角ゴシツク体の書体は、商標等において極めて普通に用いられるものであること被告主張のとおりと認められ、従つてこの書体の態様から本願商標に特別顕著性が生ずるものとは、とうていこれを認めることはできない。

なお原告は甲第一二七号証以下の書証(商標公報)を提出して、特許庁の従来の取扱いにおいて、本願商標程度のものが登録せられた例が数多存する旨主張するのであり、右公報記載のものの中には本願商標と同程度のものもないではないのであるが、これが登録を許可せられたこと自体が問題であつて、これらの登録例があるが故に、本願商標もまたその登録を許さるべきものであるということのできないことはいうをまたない。

(二)、また原告は、「平和台」は饅頭の生産地または販売場所として著名な事実はなく、また「平和台饅頭」の商標が原告以外の者によつて商品饅頭について一般に使用されている事実もないから、本願商標は原告の営業に係る商品についてのものであることを一般世人に認識せしめるに足るものであると主張する。そこで仮りに事実関係が右原告主張のとおりであるとして考えてみるとしても、平和台野球場その他の競技場で売店が設けられ、そこで販売せられる饅頭等について、その容器、包装等に、その販売場所を表わす意味において「平和台」の名を冠することが普通に行われ得る性質のものであること前記のとおりである以上、平和台が饅頭の販売地として著名でないとしても、また原告以外の者によつてその名が饅頭について使用せられた事実がないにしても、同様商品についてこれが他人によつて使用せられるの可能性はこれを否定すべくもないところであり、この意味において本願商標はなお自他商品識別力を欠くものと認めざるを得ないところであるから、右原告の主張もこれを採用することはできない。なお原告は、この点についてもまた、本願商標の書体の特殊性を主張するようであるが、その書体の特殊性自体殆んど意味をもたないものであること既に説明したとおりであるから、この点を考慮に入れるとしても、とうてい右の結論を左右することはできない。

(三)、また原告は本願商標について、出願後から審決までの間における使用による特別顕著性の主張をする。そして当裁判所が真正に成立したものと認める甲第五、第七号証、第九ないし第一二号証、第一四ないし第三三号証、第三五ないし第三九号証、第四一ないし第五一号証によれば、原告は本願商標の出願後から審決(正確にいえば抗告審判の審理終結)までの間において、本願商標の指定商品である饅頭について、その容器、包装紙等に右商標ないしこれを含むもの、またこれに類似のものを相当盛んに使用してその販売をし、また右同様のものを新聞広告、電柱広告、電車内広告、ラジオ、テレビ等によつて相当盛んな宣伝広告をした事実はこれを認めるに足るのであるが、右各甲号証によれば右宣伝広告等に使用せられたものは、原告が特に特殊の書体であることを主張する本願商標そのものばかりではないだけでなく、その製造販売及び広告宣伝の期間は概ね昭和三四年三月以降のことであつて、本件抗告審判の審決のせられた昭和三五年一〇月までの間は僅かに一年半余にすぎないことが認められるところであり、使用による特別顕著性獲得の法理は特別の場合につき例外中の例外を認めたものと解すべきであるから、右期間程度、右のような態様による使用によつて本願商標について使用による特別顕著性の確立がせられたものとはとうていこれを認め難いところであつて、この原告の主張もまたこれを認めるわけにはゆかず、原告提出の全証拠によつても右の判断を覆すことはできない。

(四)、なお原告はまた、原告が宣伝広告等をして著名ならしめた本願商標を他の業者が平和台の売店で使用することは商業道徳上も許されないことであつて、本願商標は他の業者によつて任意に使用できる性質のものではないという。しかしながら「平和台」の名称が前に認定したように、一定の場所ないしは地域として著名なものである以上、この著名な「平和台」の名を商標の要部として使用することは、同所と営業上何らかの関連を有する何人もがこれを希望するところと認められ、またそれだけに、これを何人か特定人の独占に委することはこれを不適当と考えられるところであつて、旧商標法の規定における特別顕著の要件にあつては、かような独占不適応のものもまたこれをその欠格事由とするものと解するのが相当であるから、この意味においても原告の本願商標は右にいわゆる特別顕著性を欠くものといわざるを得ないところであるとともに、右の「平和台」は商品販売の場所として、一般業者が共通にこれを使用し得る性質のものであると解すべきこと前記のとおりであるから、原告のこの主張もまたこれを採用することはできない。

五、以上の次第であるから審決の違法を主張してその取消を求める原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当であつて、これを棄却するの外はない。

〔編註〕 本件に関する商標は左のとおりである。

本願商標見本

<省略>

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