大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)151号 判決

一、原告がその主張の発明について、その主張のとおり特許出願(昭和三一年特許願第八、六七〇号)をしたところ、拒絶査定があつたので、これに不服の抗告審判(昭和三三年抗告審判第五八三号)を請求したが、特許庁は昭和三五年一〇月二八日に右抗告審判の請求は成り立たない、との審決をし、同年一一月一二日に右審決の謄本が原告に送達されたこと、ならびに原告の発明の要旨および右審決の内容がいずれも原告主張のとおりのものであることについては、当事者間に争がない。

二、原告の本件出願発明は、「任意形状の型の内部に石炭又は石炭型を設け、其の上に透明防湿強靱紙を敷き、羊羮を流入固結せしめて、羊羮の肌面と透明防湿強靱紙とを気密に密着せしめる事を特徴とする羊羮製造法」である。一方、前記拒絶査定および審決が右出願拒絶の理由として引用した昭和三〇年特許出願公告第九、一四〇号の公報には、合成樹脂等の透明皮膜で構成した筒状袋体を同型の缶に挿入し、缶の底板は着脱自在にしてかつ凹レンズ状の窪みを有せしめ、筒状袋体に羊羮の加熱泥状液を注入し、その上部に飴の水溶液を噴霧し、直ちに密封した後、底が上になるごとく倒さに置き換え、冷却整形することを特徴とする羊羮の製造方法が記載されていること、成立に争のない甲第二号証(右公報)によつて明らかである。

三、ところで、本件出願発明がその作用効果として意図するところは、羊羮に石炭形の凹部又は石炭塊の形状を作り得ることのほかに、高温の時に羊羮表面と空気とを完全に遮断するから永く保存しても発黴、変質の心配がないこと、および包装紙が透明であるから漆黒の羊羮地肌がそのまゝ観察され、前記外形と相まつてあたかも上質の石炭のような外観を呈する点にあることは、成立に争のない甲第一号証(本件特許願添附明細書)に徴して明らかである。しかるに前記引例の羊羮製造方法においても、その目的とするところは、羊羮のもつ濃紫色の水々しさが空気に接することにより失われることを防ぎ、かつ包装を開被することなく羊羮自体の美しさを直接外部より観察することを得せしめるにあることは、前記甲第二号証(右引例の特許公報)によつて、これを認めることができる。

そこで、しばらく、本願発明における、羊羮に石炭形の凹部又は石炭塊の形状を作るという効果を除外して考えれば、本願発明と引例の方法とは、ともに、羊羮を形成させてのちに包装する在来法を改め、包装内部において羊羮を流入固結させることによつて羊羮表面と包装とを気密に密着させ、羊羮が外気に接触することを防ぎ、しかも包装材料に透明のものを用いることによつて羊羮の色などを外部より直視することができるようにし、このようにして羊羮の変質防止(発黴について引例はとくにふれていないが、同様であると考えられる。)、長期保存に役立たせ、また外部に美観を呈せしめるという思想を共通にしているものといえよう。(引例において羊羮泥状液の上部に飴の水溶液を噴霧すると記載されている点は、羊羮の糖分の結晶化防止の効果を高めるものであることは、前示甲第二号証によつて明らかである。)本願発明の羊羮製造法と引用特許のそれとの相異点は、後者によつて製造された羊羮は筒状を成しているのに反し、前者は石炭形の凹部又は石炭塊の形状に羊羮を形付けし、透明包装を通して漆黒の羊羮地肌を直視することができることと相まつて、これに上質石炭のような外観を与えようとする点にあり、そのために、引例では筒状袋体を同型の缶に挿入し、その中に羊羮の加熱泥状液を注入するのであるが、本願発明においては任意形状の型の内部に石炭型を設け、その上に包装紙を敷いて、羊羮を流入固結せしめる手段を採用したものであつて、本願発明が引例に対して有する特異点は、この形付けの点に存するものと認められる。

四、ところが、羊羮の表面に種々の凹凸模様を現わすために羊羮型の底に種々の細工を施し、またはこれに細工物を置き、その上に羊羮を流し固めることは、羊羮をも含めて一般生菓子の形付けの慣用技術であるということができ、本件および引例の各羊羮製造法のように包装とともに羊羮の外形を形成する場合についても、包装の外部から右慣用手段によつて形付けすることは、特別の発明思想を要しないで実施できるものと認めるのが相当である。而うして、前記特許公報に記載された、透明包装とともに羊羮の外形を形成し、両者を気密に密着させる方法と、右慣用技術である形付けの方法とを組み合せ実施することにより、両者の各々がもつ作用効果をこえて、特別の作用効果を奏するというようなことも認められないから、両者の方法をくみ合せたことにおいて発明の存在を認めることもできない。原告が本願羊羮製造法の新規の作用効果と強調するものは、要するに右二者の既知の効果をあわせ主張するに過ぎないものといわなくてはならない。

五、原告は本願羊羮製造法において包装の透明防湿強靱紙は緊張状態を保ち、羊羮の固化とともに収縮するので、密着性がよく型の複雑な模様を模写することができると主張するが、要するにそれは包装材料の特性を利用して包装と羊羮の固化とを同時に行うことにより包装を緊密ならしめることに帰するので、引例の方法においても羊羮の冷却整形につき包装材料たる合成樹脂等の皮膜の伸長性を利用しているものと認められ、たゞ引例の方法においては包装の袋中に流し込み、本願方法においては型の上に敷いた包装の上に流し込むの微差はあるが、両者は自然力利用の方法において異なるところがないと考えるのが相当である。引例の方法において包装の材料を合成樹脂等の透明皮膜としたのに対し、本願の方法においては透明防湿強靱紙といつて、その他特にその材質を限定するところがないから、包装材料の性質によつて本願の方法が引例の方法に比し、密着性と外形々成上とくに優れていると認め得ないことは、いうまでもない。以上の認定に反する原告の主張はいずれも採用することができない。

六、本願発明の羊羮製造法は、引例の特許公報の記載から、特別の発明思想を要しないで実施できるものということができるから、出願前国内に頒布された右刊行物に容易に実施できる程度に記載されたものとして、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第四条第二号の規定により同法第一条の新規な発明と認めることができないとした本件抗告審判の審決は正当であつて、これが取消の理由たるべき何らの違法の点を発見することができない。

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