東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)24号 判決
本件昭和二九年実用新案登録願第四〇、九〇五号「スキー用エツヂ」は昭和二九年一一月一八日原告によつて出され、その説明書及び図面はその後数回に亘つて訂正されたが、昭和三二年一一月一日に差出された最後の訂正書である全文訂正説明書及び訂正図面(別紙添付図面)によれば、その考案の要旨は次のように認められる。
「帯状鋼板を断面L型状に切削して突条部(9)を設け、略アングル状に仕上げたエツヂ主体(1)の底部(2)に木螺子孔(3)を設けたスキー用エツジの構造に関するもので、このエツヂをスキー滑走面の両側端部に取付けるに当つては、スキー滑走面木部の角切部にエツヂ主体(1)の底部(2)を木螺子をネジ止めし、スキー滑走面の角切角縁(8)とエツヂの突条部(9)との間に生ずる溝に合成樹脂溶液を充填するか、又は合成樹脂帯を嵌着するかして、スキー滑走面が平面状になるようにしたものである」。
そしてこの構造によつて本件考案は、エツヂ本来の働きをする角をもつた突条部(9)の幅をできるだけ狭くして滑走面の有効面積を広くでき、またエツヂ主体の底部(2)は木螺子とともに合成樹脂によつて全部が覆われているので、木螺子の頭部を研磨仕上げする必要はなく、使用中の衝激等による木螺子の弛みや折損等の事故が防止できる等の効果をもつものである。
成立に争いのない甲第四号証、乙第一ないし第五号証(甲第五ないし第九号証)によれば、本件審決で引用せられた各公報及び刊行物の記載事項は次の通りである。
(一)、スキーの滑面両側端角縁の磨損防止のため、スキーの下底滑面の両側端角縁に金属製エツヂを取付けることが従来周知であることを例示するため審決が引用したもののうち、
(イ)、昭和五年実用新案出願公告第七、二七八号は同年六月一九日に公告されたもので、その公報には「細長い金属板をスキーの下底滑面の両角縁部に滑面と同一平面になるように装着した金属製エツヂ付スキー」が記載され、
(ロ)、昭和二九年実用新案出願公告第一五、〇五〇号は同年一一月一七日に公告されたもので、その公報には「スキー木部の滑面の両側に欠切部を設け、そこに断面四角形で一隅にヒレ状突起をもつた金属製エツヂを接着剤で接着し、更に数個所を釘又はビスで固着したスキー」が記載されている。
(二)、またスキーの滑面両側端角縁にエツヂを取付けるに当つて、そのエツヂ底部に木螺子穴を設け、これに木螺子をもつてスキー木部に取付け、且つ木螺子頭部の保護並びに衝激等による木螺子の弛緩防止のため木螺子頭部を滑面から沈下させ、且つこの上面をセルロイド等をもつて被覆した、いわゆる「隠しエツヂ」付スキーが従来周知であることを例示するため審決が引用したもののうち、
(ハ)、昭和一〇年実用新案出願公告第五、五九三号は同年五月二日公告されたもので、その公報には「スキーの滑面の両側に凹条を穿ち、そこに螺子で薄いセルロイド条を取付け、更にその表面にセルロイド条を接着剤で接着して螺子頭部を被覆したスキー」が記載され、
(ニ)、昭和一一年実用新案出願公告第四、四六四号は同年四月六日に公告されたもので、その公報には「スキーの滑面の両側に凹条を穿ち、数多の透孔をあけたセルロイド製エツヂを沿わせて、これを螺鋲で鋲頭が透孔内に深く沈下するようにネジ止めし、その上部の残つた凹所にセルロイド製填塞片を嵌入接着して、エツヂとスキー滑面の表面を平坦状にしたスキー」が記載されている。
(三)、また「隠しエツヂ」付スキーにおいて、断面L型のアングル状に構成したエツヂが従来周知であることを例示するため審決が引用した
(ホ)、朋文堂発行スキー第三号は東京都千代田区神田猿楽町二の一五株式会社朋文堂が昭和二八年一月一日に発行した刊行物であつて、右刊行物の八二頁ないし八三頁の記載、特に八三頁第三図の右から二番目の図面(スキーの断面図)には、「スキー下面の滑面の端部に、断面L型状のエツヂがその底部を木螺子でスキー木部にネジ止めせられ、木螺子頭部は覆板で覆われた隠しエツヂ付スキー」が、それについての説明はないが、当業技術者ならば容易に理解できる程度に記載されている。
そこで本件出願の実用新案の考案要旨と審決引用の前記公報及び刊行物に記載されたものとを対比して、本件出願の実用新案の考案性の有無を判断する。
(1)、スキーにおいてその滑走面の両側端縁部に断面L型状のエツヂを、そのL型の一辺をスキー木部に木螺子で止めて取付け、その木螺子頭部を保護するために覆板で被覆してスキー滑面を平面状としたものは、前記(ホ)の刊行物のスキー断面図に記載されていて、本件出願前より公知である。なおこの断面図は、前示乙第五号証によれば、その構造作用効果については何等の説明がされていないが、スキーの断面図であることは極めて明白であり、その断面図の上面近くにはトツプエツヂが断面として記載されているので、下面はスキーの滑面であることが明瞭に理解でき、その下面の滑面の端縁部にL型断面のエツヂが、その一辺を螺子でスキー木部に取付けられ、他の一辺とスキー滑面との間の溝は覆板で覆われて螺子頭部が保護されていることが認められるところであつて、当業技術者ならば、この断面図によつて右認定の構造を容易に理解し、且つこれを実施し得る程度にその記載がせられているものと認めるのが相当である。
(2)、またスキーのエツヂをスキー滑面の両側端縁部に取付けるに当つて、エツヂに木螺子孔を数ケ所設けて、これを通して木螺子でスキー木部に取付け、この木螺子頭部を沈下させ、この上面をセルロイドで被覆してスキー滑面が平面状になるようにし、使用中の衝激等による螺子の弛みや折損等を防止したものは前示(ハ)(ニ)の例示により、いわゆる「隠しエツヂ」として従来極めて周知であるものと認められる。
(3)、なおスキーのエツヂとして金属製エツヂが従来から極めて周知であることも、前示(イ)(ロ)の例示によつて明かである。
従つて本件出願実用新案の考案要旨の各部分はすべて従来公知のもの(セルロイドを合成樹脂にかえたことは同効物質の使用と認むべきである)であり、本件考案は、この公知事項を集積したものと認めるの外はないものであつて、この集積また、その集積の態様から考え、前示の引例等が公知である以上、これらのものから当業者の容易に推考できる程度のものと認めるの外はないところであつて、旧実用新案法第一条所定の工業的考案と認めることのできないものである。
原告の(一)ないし(四)の主張は、結局、本件考案と審決引用の出願公告となつた各考案とはいずれもその構造を異にするものであり、右引用のものが実用新案としてその登録を許される以上は、これと同様に改良点のある本件考案もまた当然その登録を許さるべきであるのに、本件だけを拒否したのは違法であるというに帰着するものと思われる。しかし審決が右引用の各公報の記載を引例としたのは、この引例と本件考案との異同を論じてその間に差異を認め難いとして本件を拒絶すべきものと判断したがためではなく、(従つて本件と各引例との類否について具体的な指摘がなされていないのは当然である。)、本件と右各引例の各個の間の差異はこれを認めつつも、本件考案の各部が右各引例によつて既に公知であるものと認め、この公知のものから当業者が容易に推考し得るものとして旧実用新案法第一条の考案性を否定した趣旨であることは甲第四号証(審決書)の審決理由に徴して明かである。従つて本件考案が右各公知のものから当業者の容易に推考し得るものと判断するのが相当であること前記の通りである以上、原告のこの主張の採用できないことは最早いうをまたない。
原告はまたその(五)における主張で前記(ホ)の引例が引用例として不適当である趣旨の主張をする。しかし右(ホ)の引例は、その図面についての説明は特にされてはいないが、当業技術者ならばその構造が前記の通りのものであることを容易に理解し、また容易に実施し得る程度にその記載があるものと解すべきこと前記の通りであるから、この原告の主張もまた採用できない。
なお原告は甲第一〇号証を提出し、この実用新案が許される位ならば本件は当然許されて然るべきであり、これを許さない本件審決は違法である趣旨の主張をする。この原告の気持自身は分らないわけではないが、本件出願を拒絶したことが決して理由のないことではなく、従つてこれを拒絶した審決を違法ということのできないことが既に前記の通りである以上は、後の右甲第一〇号証のものが許されたからとの理由で本件もまたこれを許すべきであるとの議論は成り立たない。原告の右主張また採用の限りではない。
以上説明の通りであつて、本件出願の実用新案はこれを登録すべきものと認めることはできないので、これと同趣旨に出た審決は適法であつて、その取消を求める原告の本訴請求は失当である。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
第一図
<省略>
第二図
<省略>
第三図
<省略>