東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)79号 判決
一、原告が、「金属装入物の熔融炉装置」なる発明につき、その主張の特許出願(昭和二六年特許第六、八一二号)をし、拒絶査定を受け、抗告審判(昭和二九年抗告審判第一、五九九号)で出願公告をされたが、本件被告補助参加人新東工業株式会社(当時の商号株式会社久保田製作所)の異議申立の結果、原告主張のとおりの審決があり、その審決書の謄本が原告主張の日原告に送達されたこと、ならびに右審決および原告の本件出願発明の各要旨がそれぞれ原告が主張するとおりのものであることについては、当事者間に争がない。
二、成立に争のない甲第三号証(本件特許公報)、第一四号証(特許異議申立書ならびにこれに添付のFOUNDRY TRADE JOURNALの一九四九年一〇月一三日号四五四頁および昭和二四年一〇月発行の和田亀吉著実際製銑法一一五頁の各写)、第一五号証(右異議に対する答弁書)をあわせ考えるときは、本願発明を構成する諸要素のうち、
(1) 炉壁を冷却する機構と
(2) 熱風の如き酸素含有の高温ガスを炉の装入物に吹き込むため炉室内にまで突入された送風管機構と
(3) 此の管機構を炉壁附近で冷却する機構と
(4) 炉底に設けられ、底部共通の高低二室を設け、上部室よりは鉱滓の流れを、下部室よりは熔融金属の流れを連続的に生ぜしめながら分離導出する機構
の各要素の一つ一つとしては、いずれも本件特許出願前公知の事項に属していたこと、そして、原告も、本件抗告審判の段階においてそのことを認め、本件発明においてはこれらの諸要素を結合利用することにより、前記連続作業を効果的に行うとともに、装入物の装入および燃焼ガスの吹込の中断で作業を簡単に中止でき、そのときはガス発生炉として利用することができるので、必要に応じガス発生と熔融とを切り替え利用し得るという特殊の効果を奏する点に発明の価値がある、と主張したものであることが明らかである。
ところで、成立に争のない乙第一号証(抗告審判における証人木村勘治郎の証言調書)、甲第二号証(抗告審判の甲第三号証)、前記甲第一四号証添附の商工省鉄鋼局長および名古屋通商産業局長の各通達写に証人木村勘治郎、橋詰二郎、玉田長次、伊藤留吉、飯田庄太郎の各証言をあわせみれば、前記各要素を結合し、前記連続作業を効果的に行うことができるように工夫した金属装入物の熔融炉は、おそくも昭和二四年末ごろまでには名古屋市北区上飯田所在の東部鋳工有限会社(代表者木村勘治郎)において築造され、そのころ監督官庁の係官や一般同業者にも公開されていた事実が明らかであり、また右熔融炉がガス発生炉としても利用できるものであつたことは、前記乙第一号証および玉田、伊藤両証人の証言によつてこれを推認するに難くない。
三、前記東部鋳工有限会社築造の熔融炉は破壊されて現在残骸をとどめるのみであることは、前記木村証人の証言により明らかであるが、前掲各証拠をあわせみれば、その構造は前記異議の手続において異議申立代理人が作成した「甲第三号証」(本件における甲第二号証)の図面に示されたとおりのものであつたことを認めるに十分である。
原告は、右「甲第三号証」の示す装置と本願発明のそれとは鉱滓および熔融金属の出口の構造および効果の点において重大な差異がある、と主張するが、前者も亦鉱滓および熔融金属の流出のために底部共通の高低二室を設けるものであることは、前記のとおりであり、原告がその構造上後者の前者と異なる点であると主張する「炉底より更に低くされた底部を共通にする」ということについては、前記甲第三号証の本件特許公報中発明の構成に欠くべからざる事項として特許請求の範囲に記載されておらず、したがつて両者の間に原告主張のような顕著な効果上の差異があることもこれを明認するに足る何らの資料がない。
四、本願発明は前記公知事実より当業者の容易になし得る程度のものであつて、旧特許法第一条にいう「新規ナル工業的発明」には当らないものといわなくてはならず、これと同趣旨に出でた本件抗告審判の審決には何らこれを取り消すべき違法の点を見出すことができない。