東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)85号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 第一引用例(昭和二九年八月二一日出願公告にかかる実用新案公報)は、「軸1の環状凹溝2に弾性リング3を嵌合してボールベアリングの内球皿6を受け、外球皿7は胴体4のボス孔内底面8と圧締環9とにより挾持し、ボス孔内面の環状凹溝10に嵌合した弾性リングにより圧締環9を抑止したボルトレス道中車の構造」であることが認められ、前記当事者間に争いがない事実に、本願実用新案登録願書および添付書類および弁論の全趣旨を総合すると、第一引用例は、前認定の構造により組立および解体が容易で、振動により緩むおそれがなく、実用上便利であるけれども、圧締環が環状凹溝に嵌められた弾性切欠リングの凹溝外に突出する部分に係止されているのみであるため、通常の衝撃や荷重に対しては耐えられるが、運転中に弾性切欠リングが受ける衝撃や横推力により大きな推力が加わると弾性切欠リング凹溝との間に緩みを生じ、リングが脱出する原因となり、また、大きな推力が加わると弾性切欠リングが凹溝から浮き上つて外れる欠陥があるところ、本願実用新案は第一引用例の構成と異なり、「外側カバー6の先端側外稜部7に特設した錐面8を弾性切欠リング10に乗りかかるような状態に圧接し」た構造を採ることにより前示の問題点を解決し、単に組立および解体が容易であるだけでなく、一旦、組み立てた後は、外側カバーの脱出方向に働く強大な力および強い衝撃動揺にも耐え、車輪体の脱出を防止しうるすぐれた作用効果を奏するに至つたものであることを認めるに十分である。なお、被告は弾性切欠リングが強大な荷重に耐えられるのは、その材質や寸法による旨主張するけれども、右主張は前認定の事実に照らし、採用することはできない。
原告は、本件審決が、本願実用新案の右の技術的手段は、第二引用例にその考案が示唆されているとし、本願実用新案は、第一引用例に第二引用例に示唆された考案を施した程度のもので当業者が容易に考案しうると判断したのは誤りである旨主張するから、以下この点につき考えるに、第二引用例(昭和一一年一〇月一〇日出願公告にかかる実用新案公報)は「ハブ球押(1)の側面において球当面(2)より外方に円杆状部(3)を設け、その外方に環縁(4)を突設し、環縁(4)の外周面をハブ椀(5)の内周面と接触せざる程度になるべく接近せしめ、環縁(4)に接する円杆状部(3)にフエルト環(6)を嵌挿し、その内方に内周縁を筒状に搾出した押座鈑(7)を嵌挿し、押座鈑(7)の接触する部分の円杆状部(3)に輪状溝(8)を穿ち、一箇所切断し弾性を与えた針金輪(9)を該溝(8)に嵌合して押座鈑(7)の後退を阻止してなる自転車ハブの構造」(別紙二の図面参照)であり、フエルト環(6)は球軸受部に雨水塵埃が侵入するのを防止する目的のもので、輪状溝(8)に嵌合された針金輪(9)はフエルト環(6)に装着された押座鈑(7)の後退すなわち、フエルト環の後退を阻止するとともに組立およびフエルト環の取替えを容易ならしめる役割りをも果たしているものであることが認められるところ、同公報図面に、押座鈑の角が断面二次曲線状に形成され、かつ、針金輪と押座鈑の接点にほぼ直角に、しかも円杆状部(3)の内方軸線に向けられた矢印が附されている事実に徴すると、第二引用例のフエルト環の針金輪による後退防止は、本願実用新案の弾性切欠リングによる外側カバーの脱出防止の場合と同一の力学的原理に基づくものと認めることができる(なお、原告は第二引用例の図面において押座鈑が断面錐面状をしているのは、工作上当然に生じたもので錐面を意識的に利用する思想を示すものでないと主張するが、図面に前認定のとおりの矢印が附されている点にかんがみると、右原告の主張は採用できない。)。しかしながら、右に認定したところから明らかなように、第二引用例の針金輪が目的とするところは、雨水塵埃を防止するためのフエルト環の後退防止であり、針金輪にかかる荷重はフエルト環の弾性圧に過ぎないから、その押圧力はそれほど大きくないものと認められるし、また、前掲甲第五号証の図面から明らかなとおり、ハブ球押は車軸にねじにより固定され、このハブ球押の円杆状部に針金輪、フエルト環および押座鈑が嵌挿、組み合わされ、これを取り付けたままでハブの解体が可能な構造であることから、外力(振動等)が針金輪に加わつたとしても極めて軽微であることは容易に推認することができ、叙上認定の事実に徴すると、第二引用例の針金輪と押座鈑の断面錐面状との組合せ構成は、技術的にいつて、本願実用新案が解決の課題とした圧締環を弾性切欠リングにより係止した場合に生ずるような極めて大きな荷重に耐えることを目的としたものとは、とうてい認め難いし、また、このような場合を予測したものとも認めえないから、第二引用例には本願実用新案と同一の技術思想が開示されているものと認めることはもとより、これを示唆しているものと解することもできない。このことは、本願実用新案の作用効果が前示のとおり顕著なものがあることからしても、十分首肯しうるところといえる。
してみれば、本件審決は第二引用例に示された技術思想についての認定を誤り、ひいて、本願実用新案が第一引用例と第二引用例に示された考案から容易になしうるものとの誤つた判断をしたものというべきであるから、違法として取消しを免れない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、本件審決は、爾余の点について判断するまでもなく、失当というべく、前記の点に違法があるとしてその取消しを求める原告の本訴請求は、その理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)