大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)1054号・昭36年(う)1055号 判決

被告人 吉岡道時 外八名

〔抄 録〕

検察官の控訴の趣意は、原判決は、本件各公訴事実については、いずれも各公訴事実記載の名義人となつている駐留米軍人或は軍属において新車購入及び免税輸入手続につき、最終的には必要書類についての署名送金手続等その形式的に必要な手続書類を完備しており、なお合衆国軍隊の権限ある官憲の証明書が添付されていたことが認められることからして、他にこれに関する偽造等の犯罪その他違法行為の存在の証明が十分でない本件においては、購入名義人らの駐留米軍人軍属の内心はともかくとして、購入名義人が自己に正当免税輸入する意思をもつてその手続をなして通関しているものと認むべきであり、被告人らが通関に関する仮装行為をしたものということはできないとして、被告人らに対し無罪の言渡をしたのであるが、原判決は、証拠の価値判断を誤まり、よつて事実を誤認したものである旨主張する。

よつて、記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌すれば、駐留米軍人或は軍属であるモニコ・A・デジエサス、バイロン・E・フイツシヤー、ロナルド・C・バラーク、ロナルド・L・ラリソン、ボール・A・アブアン、ルイス・Dアデイア及びロバート・L・スターンズにおいて、それぞれその名義をもつて、横浜税関に対し、本件各自動車の三八〇様式免税輸入申告書を提出してその許可を受け、東京湾倉庫からそれぞれ右各自動車を引き取つたことはこれを認めることができるが、右名義人である駐留米軍人或は軍属が免税輸入申告をするにあたり自己又はその家族の私用に供するため輸入するものでないのに、内容虚偽の免税輸入申告をなし真実私用に供する如く仮装したものであるとの点については、これを認めるに足る証拠がないのみならず、却つて右駐留米軍人或は軍属の新車購入及び免税輸入手続につき、最終的には必要書類についての署名送金手続等その形式的に必要な手続書類を完備しており、なお合衆国軍隊の権限ある官憲の証明書が添付されていたことが認められるのであるから、他にこれに関する偽造等の犯罪その他違法行為の存在を認むべき証拠のない本件においては右駐留米軍人或は軍属が自己又はその家族の私用に供するため本件各自動車の免税輸入申告をなしたものと認めざるを得ない。被告人らにおいて予め自動車に対する日本人の買主を決めており、当初から除隊を目前に控えている駐留米軍人或は軍属を探し出して同人に名義料ともいうべき報酬並びに右自動車代金を前渡していることは所論のとおりであるが、被告人らが駐留米軍人或は軍属との間に同人らが日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(以下単に関税法等の臨時特例に関する法律と略称する)第六条第五号の免税輸入を受けるに先だちその駐留米軍人軍属たる身分喪失後において、同法第十二条のいわゆる「みなす」輸入(譲受)を受ける約束をなし報酬並びに自動車代金を支払うことは関税法第百十条第一項第一号に定める詐欺その他不正の行為に該当しないこと当然であるから、被告人らと駐留米軍人或は軍属との間に右金員の授受があつた事実は前記認定をくつがえすものではない。また免税輸入申告手続からいわゆる第二次通関手続に至るまでの諸手続が短日時の間になされていることは所論のとおりであるが、私用に供する目的は自動車を輸入するときに存在すれば足り、該自動車の輸入後これを実際に私用に供したか否かは右私用に供する目的の存否に何らの影響を及ぼすものではない。該自動車の輸入後これを適法に転売することはこれを禁止しているものではなく、これを容認しているものであることは、関税法等の臨時特例に関する法律第十二条第一項において、同法第六条の規定の適用を受けた物品を日本国内において譲り受けようとするときは、当該譲受を輸入とみなし、関税法及び関税定率法の規定を適用する旨定めているところによつても明らかである。されば、免税輸入申告手続からいわゆる第二通関手続に至るまでの諸手続が短日時の間になされている事実は前記認定の妨げとなるものでもない。なお所論は、被告人らは駐留米軍人或は軍属と共謀の上本件犯罪を犯したものであるとの前提の下に被告人らの有罪を主張しているのであるが、本件公訴事実は、被告人らは共謀の上本件犯罪を犯したものであるというのであつて、その共犯関係の人物を日本人に限定しているのであり、両者の間には訴因の同一性に欠けるところがあるから、右主張自体失当にして採るを得ないが、仮に本件各公訴事実の趣旨が所論の如く被告人らが駐留米軍人或は軍属と共謀の上、本件犯罪を犯したものであるというにあるとしても、前記認定の如く本件各自動車の輸入名義人である駐留米軍人或は軍属においてこれを私用に供する目的があつたものと認めざるを得ないのであるから、本件犯罪成立の余地なくまた右共謀の事実を認めるに足る証拠もない。所論引用の昭和三十四年五月八日第二小法廷判決(判例集十三巻五号六百五十七頁)は本件と事案を異にし本件に適切でない。従つて、原審が被告人らの本件所為は罪とならずとして被告人らに対し無罪の言渡をしたのは相当であり、検察官の論旨は理由がない。

(藤嶋 荒川 小俣)

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