大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)1124号 判決

被告人 石井福三郎

〔抄 録〕

所論は、原判決は被告人の原判示窃盗の行為を被告人の単独犯行と認定しているけれども、右各犯行は白鳥正俊、原子隆光、同人の弟原子元伸等の謀議によつて計画せられ、被告人はその目的のために利用せられてこれに参加したものであるから、右等のものと共謀してなした共同正犯であるというべきである。これを被告人の単独犯行と認定した原判決には事実の誤認があると主張する。

按ずるに、原判決は被告人の原判示窃盗の所為を、いずれも被告人の単独犯行にかかる旨認定していることは所論のとおりである。しかしながら、原審裁判所において取り調べた証拠なかんずく、被告人の司法警察員(三回)及び検察官(二回)に対する各供述調書、原子元伸名義の昭和三十五年八月十一日及び同月十三日付上申書(何れも謄本)、原子隆光名義の上申書(謄本)、同人の司法警察員に対する供述調書三通(何れも謄本)、白鳥正俊の司法警察員に対する供述調書(謄本)、桜井達の司法警察員に対する供述調書二通の各記載に徴すれば、被告人は予てより日新運輸倉庫株式会社に自動車運転者として雇われ、横浜市鶴見区の米軍石油補給廠から米海軍厚木基地まで、右会社が請負つていた米駐留軍のガソリン等の運搬の業務に従事していたこと、右厚木基地のシヨツプストアーにガソリン等の受領責任者として勤務していた白鳥正俊は、原子隆光等と共謀の上、昭和三十四年二月頃から、予め右石油補給廠勤務の係員より、ガソリン等の運搬の用に供する給油車の番号の通知を受け、その番号の給油車を運転する運転者を誘つて、ガソリン等を抜き取り窃取することを企てたこと、同年八月二十九日、原子隆光は白鳥より被告人運転の原判示第一のガソリン一、五〇〇ガロン積載の給油車の番号の通知を受くるや、その弟原子元伸に対し右ガソリン窃取の計画を打ち明け、元伸をして被告人運転の給油車を停止せしめた上、被告人に対し厚木基地の白鳥とも連絡がついているので、右ガソリンは途中抜き取つても差支えない旨を告げこれが窃取行為に参加方を求めたところ、被告人はこれを承諾した上、態々右給油車を原判示左星斗方まで運転し、同所において右原子元伸と共に右ガソリンを左星斗方のドラム罐に移し以て窃取し、その売却代金十五万円位は右関係者等において分配取得したこと、ついで原判示第二記載のガソリン一、五〇〇ガロン積載の給油車の番号は、予め原子隆光が白鳥より通知を受け、これを弟元伸に伝えておいたので、元伸は同年九月八日右給油車を運転中の被告人に対し、前同様ガソリンを窃取すべき旨誘つたところ、被告人はこれに同意し、前示左星斗方において元伸と共に右ガソリンを前同様窃取し、その売却代金十五万円位は前同様関係者において分配したこと、前示白鳥は同年九月中旬頃厚木基地より退職したため、その後原子隆光は右基地勤務の米駐留軍要員桜井達を選び、同人と共謀の上、前同様ガソリン等の窃取を企て、数回に亘りこれを実行したこともあつたところ、同年十二月二日桜井より原判示第三記載のデイーゼル油一、五〇〇ガロン積載の給油車の番号を通知せらるるや、これを運転中の被告人に対し、厚木の桜井もとつてよいといつている旨告げ、右デイーゼル油の窃取方を誘い、その参加を求めたところ、被告人もこれを承諾し、前示左星斗方において隆光と共に右デイーゼル油を前同様窃取し、その売却代金十万円位は右関係者において分配したことが、それぞれ認められるのみならず、白鳥正俊の司法警察員に対する前示供述調書(謄本)によると、厚木基地で積荷出荷受取書に積荷を受領した旨署名をする権能を有する自分も、また給油車の運転者も、それぞれ独断ではガソリンの抜取はできるものではなく、お互の立場を利用し合つてこそ可能であるとの趣旨を供述している位であるから(桜井達も右の積荷受領の署名をする権能を有していたことは、同人の司法警察員に対する昭和三十五年八月十二日付供述調書に徴し明らかである)、本件各犯行は、被告人が原判示の如く単独にて犯したものではなく、前記の如く、白鳥正俊、原子隆光、桜井達等と意思相通じてなされた共犯にかかるものと認めるのを相当とする。然らば原判決の認定はこの点において誤謬を犯したものといわざるを得ないところ、この事実の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、ひつきよう原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて量刑不当の論旨についてはこれが判断を省略して、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十二条に則り原判決を破棄すべく、尚本件各犯行が共同正犯であることは、原審公判廷において取り調べた証拠(被告人及び弁護人はこれを証拠とすることに同意し、原審裁判所は適法にその証拠調を了している)に徴し優にこれを認め得ること前段説明のとおりであるから、単独犯として起訴せられた本件各犯行を共同正犯と認定しても、これがため公訴事実の同一性を害し、また被告人に不当な不意打を加え、その防禦権の行使に不利益を与える虞は存在しないので、本件については訴因、罰条の変更の手続を必要としないものと認め(最高裁判所第三小法廷昭和二八年一一月一〇日判決、同判例集第七巻第一一号二〇八九頁参照)、同法第四百条但書により、当裁判所において直ちに次の如く判決する。

(三宅 東 井波)

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