東京高等裁判所 昭和36年(う)1157号 判決
判決理由〔抄録〕
よって案ずるに、原判決認定の事実は各所論の点をも含めて総てその挙示する証拠により優にこれを肯認することができるのであって、即ちこれ等証拠(原審第一回公判に於ける被告人の供述等参照)によれば、原判決が詳細摘示するように被告人が相当飲酒し酒に酔い正常運転ができない虞れがあるのに原判示貨物自動車を運転し、また原判示女中鈴木とよの外中野たけを同乗させ、原判示姥ヶ橋交さ点に差しかかり同所を右折するに当り速力を減じ安全に右折する注意義務があるのに、酔のため判断を誤り漫然時速五十粁の速度のまま直進し急激にハンドルを右に切った過失により、自動車を顛覆させガソリンに発火させ自動車に燃え移らせ、鈴木とよを火傷死に致し中野たけに火傷及び左肩胛骨骨折等の傷害を与えたことを認めることができる。所論は右女中中野たけが自動車に乗車していたことを知らなかった旨主張するが、被告人が中野たけの乗車していたことを知っていたことは右認定のとおりこれを認めることができるが、仮りに被告人が右中野たけが被告人運転の貨物自動車の荷台に同乗していることを知らなかったとしても、刑法第二百十一条の業務上過失致死傷罪は犯人の業務上必要な注意義務を怠った過失により犯人以外の他人に死傷の結果を惹起したことにより成立し、該過失行為と死傷の結果との間に因果関係のあるを以て足りるから、本件に於て被告人が自己運転の貨物自動車の荷台上に中野たけが乗車していたことを知らなかったとしても、被告人がこれを知っていたと否とに拘らず、被告人の業務上の過失がなかったならば右中野たけの傷害も発生しなかった関係を認めることができるから、右被告人の業務上の過失と中野たけの傷害との間に因果関係あるものと云うべく、(昭和三年四月六日大審院判例刑集七巻二九八頁遺棄致死罪の判例参照)被告人に業務上過失傷害罪の責任あること明白である。而して諸証拠のうち右認定に反する部分は原判決が他の証拠により証拠として採用しなかったものと思われ、これが証拠の採否につき不法不当の点も見当らないし、その他記録を精査検討してみても、原判決の認定に誤があるとは思われないから、原判決が挙示の証拠により判示事実を認定したのは正当であって、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はない。