大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)1183号 判決

被告人 阿部猛夫

〔抄 録〕

所論は、原判決は事実を誤認しひいて法令の適用を誤つたものである。即ち(一)原判決判示八重洲紙業株式会社は同国際興業株式会社に対し本来の営業上の使用権のみを放棄して本件建物を明け渡したにすぎず、当時債権者国際興業株式会社と債務者八重洲紙業株式会社等との間の占有移転禁止仮処分により、右債務者等は本件建物の使用を許されており、右仮処分執行の解放手続がなされてその通知書が債務者側に送達されるまでは、債務者としては、本件建物に抵当権が設定され徴税の担保となつている関係上、建物保全の責任があり、放浪者の立入や失火を防止するため適当な措置をとることが許さるべきであり、従つて本件は住居侵入罪を構成しない。と主張する。

しかしながら、原判決が判示する事実は原判決の挙示する証拠(但し被告人につき採証していないものを除く)によつて優に認めることができる。(一)尤も本件建物については当時債権者国際興業株式会社、債務者八重洲紙業株式会社等との間に占有移転禁止の仮処分の執行がなされ八重洲紙業株式会社等は現状を変更せざることを条件としてその占有部分の使用を許されていたこと及びその後右仮処分の執行は取り消されたが八重洲紙業株式会社に対しては未だその通知が到達していなかつたことはいずれも所論のとおりであるが、原判決挙示の対応証拠によれば、八重洲紙業株式会社は右仮処分の執行後たる昭和三十五年四月十三日頃株式会社北隆館等と共に国際興業株式会社との間に示談が成立し本件建物の各占有部分を明け渡すことを約し、同年五月十五日頃までにはすべての明渡が完了し国際興業株式会社においてその引渡を受けてこれを看守するに至つたことが明らかであつて本件建物の明渡が所論のように本来の営業上の使用権のみを放棄して行われたものとは認め難く、その明渡後において、所論のような仮処分の執行取消の通知の有無にかかわらず、八重洲紙業株式会社等は国際興業株式会社に対し新たな権原に基づかない限りその意思に反して本件建物に侵入することは許されないものというべきであり、本件侵入が国際興業株式会社の意思に反して行われたことは前掲証拠によつて明白である以上、もとより住居侵入罪を構成するものといわなければならない。

(渡辺辰 司波 小林)

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