東京高等裁判所 昭和36年(う)2110号 判決 1962年2月21日
控訴人 被告人 星川信治
弁護人 鈴木重一
検察官 上田朋臣
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中一三〇日を原審の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人鈴木重一提出の控訴趣意書のとおりであるから、これを引用し、これに対し次のように判断する。
趣意、一、について、
原判決引用の証拠によれば、被告人は洋品類を窃取した後、恰もこれを正当に購入したもののように装い嘘言を弄して返金名義の下に金員等を騙取しようと企て、原判示第一の(1) の各窃盗を犯し、次で、判示第二の(1) (2) (3) のようにその被害者方店員等に対し窃取にかかる衣類を提出して右趣旨の申出をし同人等を欺罔し現金などを騙取、または、その未遂を犯したことが認められる。弁護人の所論は、まず、本件の窃盗の動機は詐欺を犯すためのものであるから、一連の行為として窃盗罪か詐欺罪かの一罪に問擬すべきものである。すなわち、窃盗罪とすれば詐欺の行為は事後処分であつて別罪を構成しないと主張するのである。犯人がその窃取にかかる財物を処分しても事後処分として別に犯罪を構成しないことは論をまたないが、本件のように、窃取した洋品類を正当に買入れたものと詐つて金員等を騙取した場合は、更に新たな法益を侵害したもので、これを目して事後処分ということはできず窃盗罪のほか詐欺罪を構成するものと解するを正当とするので、右所論は採らない(昭和三六年二月二八日東京高等裁判所第八刑事部判決参照。)。次に、所論は、主観的には本件窃盗行為も継続して敢行されておるのであるから一連の一罪である。また、他面窃盗と詐欺との間には主観的に手段結果の関係にあるから刑法第五四条第一項後段によつて一罪として処分すべきである。仮に、併合罪としても原判決はどの分とどの分とを併合しているのか特定していないというのである。しかし、本件犯行は昭和三六年二月中旬から同年六月中旬迄の間時と場所を異にし(場所が同一のものもあるが)行われたもので未だもつて包括一罪とは認め難い。また、刑法第五四条第一項後段の牽連犯の成立には罪質上通例手段結果の関係があることを要するものと解すべきところ、窃盗と詐欺との間にはその関係があるとは認められないので本件を牽連犯ということはできない。従つて原判決が、窃盗、詐欺の併合罪として処断したのは正当で、しかも、原判決は刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条を適用し最も犯情の重い前記第一の(1) 別表一の10の窃盗の罪に法定の加重をしておるのであつて、何らの誤りもない。論旨はいずれも理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 小林健治 判事 浜田潔夫 判事 松本勝夫)
弁護人鈴木重一の控訴趣意
第一点原判決は法律を適用するに付て単に窃盗罪に付ては二三五条、詐欺罪に付ては二四六条、併合罪としては四五条前段を適用しているのであるが、本件は判示している通り「被告人は洋品類を窃取した後恰も之を正当に購入したもののように装い嘘言を弄して返金名義の下に金員等を騙取しようと企て」大部分は(二件を除く)窃盗の動機は本件詐欺を犯さんが為にしたものであつて窃盗罪か詐欺罪かの一罪である。即ち窃盗罪であるとすれば詐欺の行為は所謂「事後処分」であつて別罪を構成しないと思われる。又主観的には同一罪名の窃盗罪を継続してやつているのであるから主観的一罪である。又詐欺の行為も其の通り主観的一罪であるし窃盗罪が詐欺罪から包括的に吸収せられて各一連の一罪行為であるし又他面窃盗詐欺の点は主観的には手段結果の行為であつて刑法五四条一項後段による一罪である。数罪ではない。然るに原判決は併合罪を適用しているのである。又数罪であるとするも、どの分とどの分とを併合しているのか特定していない。即ち原判決は擬律錯誤の違法があると思料する。
(その他の控訴趣意は省略する。)