東京高等裁判所 昭和36年(う)2170号 判決
被告人 有限会社川治本店 外一名
〔抄 録〕
控訴趣意書記載の控訴の趣意第一(審理不尽、事実誤認、法令適用の誤、理由不備)について
所論は、所轄税務署に対し虚偽の確定申告書を提出し受理された後においても、納税者である法人は修正申告をすることも更正の請求をすることもできるのであり、税務署側においても調査更正等の手続をする余地が残されているのであるから、虚偽の確定申告書を提出することは、法人税法第四十八条第一項所定の逋脱罪の実行に着手したことにはなるが、ただそれだけでは同罪の既遂にはならないものというべきである。即ち、右逋脱罪は、税務当局において当該の虚偽の申告を是認し申告外のものは一切徴収しないという納税義務免除の意思表示をした場合に、はじめて既遂になるものと解すべきである。然るに原判決は、起訴状記載の公訴事実を引用し、「虚偽の法人税確定申告書を提出しよつて同事業年度における法人税金……円を免れ」と判示しただけで、前記のとおりの納税義務免除の意思表示がなされたか否かについては、なんら審理及び判示するところがない。それ故、原判決には、審理を尽さずして未遂の段階にある行為を既遂と誤認した違法乃至は法律の適用を誤つて罪とならない行為を有罪とした違法があるとともに判決に理由を付しない違法があるというのである。
しかし、現行法人税法は、申告納税を基本とするものであつて、被告会社のようにその事業年度が六箇月を超える法人については、当該事業年度終了の日から二箇月以内に確定申告書を提出すべきものとすると同時に、右の確定申告書を提出した法人は前記申告書の提出期限内に所定額の法人税を納付すべきものと規定すること等に鑑みれば、同法第四十八条第一項(但し、昭和三十二年三月三十一日以前に終了する事業年度分の法人税の場合は昭和三十二年法律第二十八号附則第十六項による改正前のもの。以下同じ。)所定の詐偽その他不正の行為により申告をなすべき法人税を免れる罪は、前記の期限内に内容虚偽の確定申告書を提出した法人については、その儘前記の納期を経過した時に完了し、既遂となるもので、その後において、同法第二十四条の規定による修正申告をしてこれにより増加した税額を納付し、又は政府において同法第二十九条第一項によりその調査したところに従い課税標準及び法人税額を更正し、不足税額を追徴する等のことがあつても、なんら前記法人税を免れる罪の成立を妨げるものではないと解するのが相当である(昭和三十六年七月六日最高裁判所第一小法廷判決、最高裁判所刑事判例集第十五巻第七号一〇五四頁以下参照)。そして原判決の認定したところによれば、被告会社は、原判示各事業年度分について、それぞれ法定の申告書提出期限の末日に内容虚偽の確定申告書を所轄税務署長に提出して納期を経過していることが明らかであるから、その後において修正申告、更正等のあつたことは記録上明白であつても、法人税法第四十八条第一項所定の申告をなすべき法人税を免れる罪の既遂をもつて論ずべき場合であることはいうまでもないところである。それ故、原判決にはなんら所論の各違法はなく、論旨は理由がない。
(下村 高野 上野)