大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)2736号 判決

被告人 早川二郎 外三名

〔抄 録〕

弁護人の論旨は原判決第二の事実につき、(一)、被告人両名には殺意なく、従つて共謀の事実は全くない。(二)、本件の拳銃の打ち合いは、被害者と称せられる塚越辰雄が被告人早川に対し先に発砲したことに端を発するものであるのに、原判決は塚越との間に打ち合いとなつたと認定した。

検察官の論旨は同じく原判決第二の事実に関し、(一)、本件は被告人熱田が塚越辰雄から暴行を加えられたため被告人らが仕返をする意図の下に、拳銃を携えて押しかけたいわゆる殴り込み事件と認められるのに、原判決は対等に交渉するため、および万一相手方が攻撃を加えて来た場合、これを防衛し反撃する必要のための拳銃を携帯したものであると認定した。(二)、又、本件においては、被告人ら特に被告人早川が先に拳銃を発射して先制攻撃を加えたと認められるのに、原判決は被害者塚越との間に打ち合いとなつたと認定した。

右誤認はいずれも判決に影響を及ぼすこと明かであるというにある。

よつて按ずるに、

原判決は、判示第二の事実として、

被告人熱田静夫は、昭和三五年四月二八日午後二時頃、横浜市南区中村町旅館「三栄荘」で博徒の塚越辰雄から賭博上の金銭問題にからんで顔面を殴打され負傷し憤まんやる方なく逃げ帰る途中、同日午後四時頃、同市中区弥生町横浜橋附近で仲間である被告人早川二郎、同細野年男および同若田部一男に出合つたので、同被告人らに右事実を話しその始末をつけるため塚越に対し交渉するつもりでいる旨告げたところ同被告人らもこれに同調し、被告人ら四名で相談の結果、翌日塚越方に赴いてこの問題について塚越と話し合うことに一決したが、その際、被告人ら四名は、塚越が日頃手近に拳銃を置いていることを知つていたので、対等に交渉するためには被告人らも拳銃を携行する必要があるし、さらに万一交渉がまとまらず相手方が攻撃を加えて来たような場合にはこれをもつて反撃する必要もあり、そしてかかる場合には事情いかんによつては塚越を射殺するに至ることのあるのもやむをえないと考えたうえ、拳銃を携行することに決め、もつて謀議をとげ、翌二九日午後四時四五分頃、被告人早川が実包八発位装填の三二口径ブローニング式拳銃一挺(昭和三五年押第五二二号の17―当庁昭和三六年押第一〇八四号)を同熱田が実包七発位装填の四五口径コルト式拳銃一挺(同号の15)を、同若田部が実包七発位装填の三二口径コルト式拳銃一挺(同号の18)をそれぞれ携帯し、被告人細野とともに右塚越の居住する同市南区真金町二丁目一四番地青木アパートに至つたところ、同アパート入口附近に男一人がいるのを認めこれを塚越の輩下の者と誤信して、塚越側がすでに被告人らの報復を予期して準備をととのえているものと即断し、狼狽して、各被告人とも土足のまま同アパート入口から二階六畳間塚越方居室前の廊下附近まで侵入し、同所において、これを知つた塚越との間に拳銃の打ち合いとなつたが、その際被告人早川、同熱田および同若田部は、塚越に対しもし命中すれば死に至るかも知れないことを意議しながらあえて、各自携帯した前記拳銃をそれぞれ数発づつ発射したが同人に命中せず、たまたま同アパート二階六畳間塚越方居室内にいた同人の妻光江(当時三八年)に対し、被告人熱田の発射した一弾を誤つてその左そけい部に命中させたが、同女に対し加療約二八日間を要する左そけい部貫通銃創の傷害を負わせたに止まり殺害するに至らなかつたものである。

と認定したこと明らかである。

しかしながら、原判決が挙示した証拠、当審の事実取調の結果および記録を精査し、とくに、各証拠を綜合取捨して勘考するに、被告人らは、三栄荘で被告人熱田が塚越辰雄に殴打負傷されたのに憤慨し仕返をしようとの同被告人の意図に同調し、場合によつては同人を殺害するも止むなしと考え、共謀のうえ、被告人早川、同熱田、同若田部は拳銃各一挺を携え相共に青木アパートの塚越の居室に到り、まず、被告人早川においてその入口の戸をあけ、矢庭に同人に向つて発砲し、ここに打ち合いとなり、右被告人三名は命中すれば死に至るかも知れないと意識しながら各自数発づつ発射したが、同人には命中せず、被告人らの発射した一弾が同人の妻光江に命中し傷害を与えたものと認定するが経験則至当である。被告人らは仕返しに行つたのではなく、話をつけに行つた旨、被告人早川は塚越が先に発砲した旨極力弁護するが、右供述は措信しがたく、他に右認定を覆す資料はない。しからば、弁護人の論旨は理由がないが、検察官の論旨は理由があることとなる。もつとも、右の誤認は犯罪事実そのものの誤認ではないにしても、量刑上極めて重大な点であるので判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、他の論旨について判断をするまでもなく、原判決は破棄を免れない。

(小林健 遠藤 吉川)

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