大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)399号 判決

被告人 藤野啓介

〔抄 録〕

按ずるに、原判決は罪となるべき事実の第二として、被告人は「前記のような衝突事故を起したのに、被害者の救護その他法令に定められた必要な措置を講じないで、そのまま運転を継続して現場より立ち去つた」旨判示し、これに道路交通取締法第二十四条第一項、第二十八条第一号、同法施行令第六十七条第一項、第二項を適用処断しているところ、所論は、右施行令第六十七条第二項は、操縦者等が第一項の措置を終えた場合にのみ義務づけられるものであるから、その第一項所定の措置を講ぜず、ためにその刑責を問われる場合においては、第二項に違反する罪が同時に成立するものではないと主張する。按ずるに右第六十七条第一項の規定の主眼とするところは、操縦者等に対し、交通事故の場合直ちに被害者の救護等の措置を講ずべき義務を負担せしむることにあつて、同条第二項は第一項の措置を更に遺憾なからしめんとするにある法意であるから、第二項は第一項の補充的の規定であると解するを相当とする。よつて交通事故発生の場合、操縦者等が第一項所定の措置を講ずることなく、そのまま車馬の操縦を継続し、現場を立ち去つたときは、第一項違反であることは勿論であると共に、只その違反たるに止り、第二項違反の罪は成立しないものと解するを相当と思料する。然らば原判決が原判示第二の事実に対し、右第六十七条第一項に該当すると共に第二項にも該当する一罪として処断したのは、所論の如く法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。しかしてこの誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、この点において破棄を免れず論旨は理由がある。(因に、所論は右第六十七条第二項中、事故の内容を警察官に報告すべき義務を定めた部分は憲法第三十八条に違反し無効であると主張するけれども、右に規定する報告すべき事故の内容とは、その事故の場所、事故の種類、程度その附近の交通状況等、もつぱら交通事故の現場処理に必要な行政目的のためのものに限定せられ、事故の発生原因等、操縦者が刑事責任を問われる虞のある事項まで報告すべきことを規定したものではないと解せられるので、右報告義務を課した規定は犯罪追求に向けられているのではないことは明らかであるから、これを以て所論の如く黙秘権を保障した憲法第三十八条第一項の規定に違反するものとはいえない。

(三宅 東 井波)

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