大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)885号 判決

被告人 木沢利太郎

〔抄 録〕

よつて記録を精査し、原判決挙示の各証拠を仔細に検討し、なお重ねて当審において事実の取調べをした結果を綜合して勘案するのに、被告人が昭和三十一年十月頃坂本為次郎の依頼によつて被告人の知人木村隆一の紹介で埴輪三体を十五万円にて買い受ける際その斡旋をした事実、及び昭和三十三年六月頃より被告人が坂本の商品を委託販売する約定にて前後十数回に亘り、本件小壼六点を含む数十点の骨董品類の委託を受けその一部を委託の趣旨に従つて販売し、販売しえないものは現品のまま坂本に返還したが、本件小壼六点は被告人はこれを他に販売しながらその代金を坂本に支払はずこれを自己の営業資本等に使用した事実はいずれもこれを認定することができる。

所論は、右小壼六点を含む小壼八点と埴輪一体を被告人において販売しその評価を約十万円と見積りこれと被告人が坂本より支払いを受くべき埴輪三体の斡旋謝礼金十万円とを相殺することにつき坂本の同意を得たと主張するのであるが、全証拠を仔細に検討するのに、右相殺の点について坂本の明白な承諾があつたものと認めることはできない。併しながら埴輪三体の斡旋謝礼の件については、坂本は当時相当の価格をもつて他に転売し得る見透しもあつてその物色、買受けの斡旋を被告人に依頼したので、実費弁償の外に最低十万円程度の謝礼金を支払うべきことを約束した事実は認められるのである。唯その支払時期等については確たる約定もなく、坂本としては予測通り転売し得たときに支払い度い内意ではあつたと推測し得るのであるが、被告人としてはその後自ら古美術品の営業も始め、その営業資金にも役立つことなので、機会を見て右謝礼金の支払いを受け度いと希望していたので本件小壼六点を含む小壼七点及び他に赤絵の壼一点の委託品につき、これをもつて埴輪謝礼金の決済を得度いと考え、坂本に対し、当時既に売却し代金未納となつていた右赤絵の壼の代金と、右小壼七点をもつて謝礼金に充当して貰い度い旨申し入れたところ、坂本は埴輪の礼は売れてからにして呉れ、と言つてこれを承諾せず、被告人より売れなかつたら永久に礼は呉れないのか、もう一年も経つのだから、この辺で差し引き勘定にしてくれと、重ねて懇請したのに対し、坂本はまた来る、と言つて被告人方を辞し、その後被告人の不在中一度訪ねただけであつてその後は前記委託販売も打ち切つて被告人方を訪問しなかつたため、被告人は前記赤絵の壼の未払代金の支払を受けたが、そのまま被告人の営業資金に充当し小壼七点の内六点は翌年二月より五月までの間被告人としては謝礼金の決済を受けるつもりでこれを他に売却し小壼一点はそのまま保管している事実が認められるのである。

即ち被告人は本件小壼等を坂本に無断で処分した訳ではなく、もともとそれは同人より委託販売を依頼されていた物件であつたが、同人が約束の謝礼金を一年以上も支払はないので、右委託の物件で謝礼金の決済を得度いと考えその申入れをしたが同人はその承諾を回避する態度に出て結局物別れに終つたので、被告人としては委託品の販売代金で謝礼金の決済を得るつもりでこれを売却し、飽くまで坂本に対してもこれを主張する意図であつたことは十分に看取し得るのである。したがつて坂本が右のような決済を承諾しない限り民事的紛争として問題の残ることは当然であり、その紛争において被告人の主張が容れられない場合には、被告人として右小壼等の売却代金を坂本に対し支払はざるを得ない結果となること、また、言を俟たないところであるが、被告人が委託品の売却に当つて、その代金をもつて自分が当然支払いの請求をなし得ると考えている謝礼金の決済を得ようと意図し、相手方に対しても飽くまでこれを主張しようとした場合、被告人が右委託品を不法領得の意思をもつてこれを横領したものと認めることは相当でない。この場合坂本としても、被告人の主張を容れることができなければ、あくまで民事的訟争によつてその権利を主張すればよいのであつて、同人が、徒に感情に走つて、刑事上、被告人の責任を追及することによつて一挙に事を解決しようと計つたことは適切を欠くものである、以上の如く原判決が被告人に不法領得の犯意ありとして横領の罪を認定したことは事実の誤認であり、判決に影響を及ぼすこと明かである。

(兼平 斎藤 関谷)

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