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東京高等裁判所 昭和36年(ツ)66号 判決 1962年7月10日

上告人 松本岩吉

被上告人 松本春吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人は「原判決を全部破棄して更に相当の裁判」を求め、その理由として別紙上告理由書並びに追加上告理由書記載のとおり主張した。

上告理由第一点、第二点、第四ないし第六点、第十一点、第十六点及び第十七点について、

原判決もいつているように、土地台帳附属地図(公図)はそのすべてが一般的に作成当時の土地の形状を正しく記録したものということはできないのであつて、個々の公図についてその正確性が検討されなければならないものである。原判決はその挙示する諸証拠に基いて、本件公図と現況図とは一面多くの対応点が見出され、それに応じて多くの対応する線が見出されるが、他面原判決が判示しているように、(1) ないし(7) の一致しない点や線がかなり多く存在することを認定したうえ、本件公図の形状を根拠とする上告人主張の線が本件係争の経界であるとの上告人の主張は認められないとしたのであつて、原判決の挙示している諸証拠によれば、本件土地の経界線が原判決の判示している線であることを認定できるばかりでなく、原判決の右認定判断は論理法則と経験則とに反するものではなく、その判示は十分納得できるものであるから、なんの違法も認められない。事実審裁判所がどの証拠を採用するかどうかは、原則として自由なものであるから、鑑定人の鑑定の結果を採用するかどうかは自由であるばかりでなく、原審の鑑定人大久保武彦の鑑定書の記載によれば、右鑑定の結果は本件公図上の係争経界線を現況図上に強いて表示するならば、上告人の主張の二屈曲線をなす(ト)(ヘ)(ホ)(ニ)の各点を順次結んだ線であると明記しているのであるから、原判決が右鑑定人の結果をそのまゝ採用しなかつたたことをもつて、ただちに違法であると認めることはできない。上告人の主張は結局原判決が適法になした証拠の取捨と事実の認定を上告人独自の立場に立つて非難攻撃するものであつて、原判決には上告人主張のような法令違反は認められないので、論旨は採用できない。なお上告人は、原判決が和解により定められた線を係争の経界であると判示したことは、公法上の経界を判決により移動したものであるとして、原判決は法令に違反し、最高裁判所の判例に違反すると主張するけれども、その理由のないことは後記(第三点についての判断)判示のとおりであるから、この点の論旨も採用しえない。

上告理由第三点について、

土地の経界は公法上のものであつて、関係当事者の合意で左右することのできない性質のものであるから、関係当事者の和解で経界を定めた事実があつても、これにより固有の経界自体が変動するものでないこと、原判決が上告人主張の(イ)(ハ)の両点を結ぶ線が係争土地の経界であると認めたものであること、右経界は上告人と被上告人の管理人である訴外松本清三との間に成立した和解で定められた線と一致するものであることは、上告人主張のとおりである。しかし、原判決の記載によれば、原判決は上告人のいうように、右和解が成立したことによつて右(イ)(ハ)の両点を結ぶ線が係争土地の経界に変つたと判示しているものではなく、その挙示する諸証拠に基いて、係争土地の占有関係、現地の状況等を認定したうえ、上記和解の成立したことをも一つの証拠資料として参酌した結果、これらを綜合して右和解で定められた(イ)(ハ)の両点を結ぶ線が、当初から存在する係争土地の固有の経界であると認定したものであることが明らかであるから、原判決には上告人主張のような違法はなく、また上告人引用の最高裁判所判例は本件に適切でなく、論旨は採用できない。

上告理由第七点について、

原判決をよく読めば、原判決理由中の三の(二)、(三)と、四の(二)及び五との間にはなんの矛盾がないことが明らかであるから、原判決には理由のくいちがいがあるものとは認められない。

上告理由第八点について、

上告人引用の最高裁判所の各判例は、いずれも本件に適切でなく、原判決との間になんの牴触も認められないから、論旨は採用できない。

上告理由第九点及び第十点について、

本件記録によると、上告人は第一審で係争部分の土地の範囲の所有権の確認と右土地部分の明渡を求めたけれども、原審での第一回口頭弁論期日において右請求を変更し、係争土地の経界の確定のみを求めたものであることが明らかであり、また、原判決は右請求の変更により所有権の確認を求める旧訴は取下げられたので、経界確定を求める新訴について判決をなしたものであることは、原判決の記載により明らかであるから、上告人は原判決に添わない非難をしているにすぎない。論旨は理由がない。

上告理由第十二点について、

上告人の主張する和解契約は要素の錯誤により無効であるとの上告人の主張について、原判決がなんの判断もしていないことは原判決の記載により明らかである。しかし、上告人の右錯誤に関する主張は、被上告人が右和解の成立により和解で定められた被上告人主張の線が係争土地の経界であることが明らかである旨主張したのに対してなされたものであるところ、原判決は、土地の経界は公法上のものであつて当事者が任意に処分することのできない性質のものであるから、経界そのものについて仮りにこのような合意又は和解が成立したとしても、経界確定の訴においては和解による経界線の主張は、それ自体理由がないとして被上告人の右主張を排斥したため、上告人の錯誤に関する右主張の当否はもはや判断の必要をみないとしてこれに触れなかつたものであることは、原判決の全体を読めば判るところであるから、原判決には判断遺脱の違法はない。もつとも、原審が経界線を確定するについて、右和解のことを一つの証拠資料にしているが、これは右和解が有効であるか無効であるかに拘りなく、一つの証拠資料として採用したものであるから、この点について判断しなくとも別に違法にならないのはもちろんである。原判決が判示(イ)(ハ)の両点を結ぶ線を係争土地の経界と認めたことが、最高裁判所の判例に違反するとの上告人の主張の採用できないことは上記判示のとおりであるから、この点に関する上告人の主張も採用しえない。

上告理由第十三点ないし第十五点について、

原判決挙示の諸証拠によれば、原判決認定の事実を認めることができるのであつて、右事実認定に違法があるものとは認めえない。もつとも、原審での検証(第一回)調書並びに原審証人沼上藤太郎の尋問調書によれば、検証の現場での証人尋問に際し、上告人は後に提出する甲第十一号証を示して右書証につき同証人に問を発したのに対し、同証人が上告人の主張するように供述していることが認められるけれども、右書証は原審での口頭弁論でついに提出されなかつたものであることは、本件記録により明らかである。従つて原判決が右書証についてなにも触れなかつたことは当然のことである。結局、上告人の主張は原審が適法になした証拠の採否と事実認定とを独自の立場に立つて非難攻撃するに帰するものであるから採るをえない。原判決には上告人主張のような違法はない。論旨は採用できない。

以上のとおりで、本件上告は理由がないから民事訴訟法第四〇一条を適用してこれを棄却することとし、上告費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお、上告人は、追加上告理由書末尾に記載の判決を求める旨請求していて、その趣旨も必ずしも明確でないが、右追加上告理由書は上告期間経過後に提出されたものであるばかりでなく、本件上告は上記のとおり理由がなく棄却すべきものであるから上告人の右請求は許されないことが明かであるから、一言附言する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

別紙 上告理由書

第一点土地台帖附属図(以下公図と略称し他の凡ての名称は判決書に準ずる)を正確でないとして之を無視した事は甚しく不法である。鑑定書P35・P38・P39・P45・P46・P69・P74・P76・P77其他に於て公図の精度の良好な事が明記されている。

第二点何等専問的知識を持たない裁判官が日本屈指の鑑定人、大久保武彦氏が二ケ年と云ふ長年月を費して鑑定せられた境界(公図の示す<図省略>)を否定せられたのは甚しく不法である。

第三点境界鑑定の結果公図の示す境界が表示されているのに「境界が不分明である」として和解による境界<図省略>を以つて正しい境界であると判決したのは不法である。境界は公法上のものである。

相隣者との間で境界を定めた事実があつてもこれによつてその一筆の土地の固有の境界自体は変動するものではない。(昭31、12、28最高裁判例判決要旨三、参照)

第四点判決理由には、公図は明治六年に作製されたものであつて不正確であると書かれてあるが、鑑定書(P25・P38・P39・P45・P46・P69・P74・P76・P77)其他に於て公図の精度の良好なことが明記されている。

第五点判決理由には第一土地、第二土地の附近に於て本件公図は現況図と一致していないから公図は不正確であると書いてあるが、これは公図が不正確なのではない。現況が不正確なのである。(鑑定書P76・P77参照)これ等は皆不法者の手によつて動かされたものである。其疑ひがあつたればこそ鑑定人はわざわざ広範囲に亘り現況調査、測量をせられたのである。其結果第一土地第二土地の東西の境界三本だけが甚しく公図と相違して居り其他の数十本の各地番の境界線は大体公図と一致していることが判明したのである。(鑑定書P46・P69・P76・P77参照)現境界の一部の境界(三本)が公図と一致していないといふ理由を以て直ちに公図が不正確であると云ふ論は甚しい誤りである。

第六点判決理由には「鑑定書第四章第二節に示されている右の判定の結果は本件公図上のf31・e2・e1・d4(検証図<図省略>上告人主張の境界)に対応する点を現況図に敢て表示するならば、右のように表示されることになるといふだけの意味であつて、右のようにして表示された線が真実の境界であると判定したものではない」と書かれてあるが、表示された右鑑定による境界は真実の境界か、或は真実の境界に極めて近いものであることは鑑定書の証明する所である。(鑑定書P76・P77及第四章全文参照)

一分一厘違はぬと云ふ程正確な真の境界は人間の能力では表示し得ないのであるから、公図の示す境界に極めて近い表示が出来たら其表示(鑑定境界<図省略>を以て真の境界と見做すべきは当然の理である。然るに公図の示す境界と五米九五(北点(イ)に於て)も相違した<図省略>の和解による線を以つて正しい境界と判決したことは甚しく不法である。

第七点判決理由。三の(二)(三)と四の(二)とは矛盾している。

〃    〃と五 とは矛盾している。

第八点当審に於ける判決は最高裁判決判例に違反している。

(昭和31、12、28最高裁第二小法廷判決判例・昭和33、10、21最高裁第三小法廷判決判例参照)

第九点当審に於ける判決は「境界確定の訴」につきなされたものでなく「所有権確認の訴」につき為されたもので不法である。

第十点上告人は既に第一審の時から訴名の訂正方を願出ていた。この間の事情は上申書(昭36、1、25日付)に詳しく書いてある。岡咲裁判長が恰も第二審に於てのみ訴名の訂正方(変更と書いてあるがこれは誤りである)を申出た様に書いておられるのは誤りである。

別紙

追加上告理由書

第十一点判決理由の骨子となつているものは「公図は不正確であつて境界は不分明であるから和解の境界をもつて固有の境界とする」といふのであるが、確定書のいづれの部分にも公図は不正確である。とも境界は不分明であるとも書かれていない。鑑定書(P25・P38・P39・P45・P46・P69・P74・P76・P77等)には公図の精度は良好ですぐれた内容を有していると書かれてある。又P110には「公図に示されている係争境界の位置を現況図上(現地)に求めることが可能である」と書かれてある。これは境界が不分明でないことを示しているものである。而して第四章第二節判定の結果に於て係争境界(公図の示す境界<図省略>の位置の求め方が詳細に記載してある。

上告人(測量士、土地家屋調査士、この資格は昭和三十一年十一月に得たもので乙第一号証作成当時は何等の資格も有していなかつた)は境界鑑定書に基き、裁判官、被上告人立会のもとに、現地に公図の示す固有の境界を表示した。(平板測量法による。)従つて境界は不分明ではなく明瞭に判明している。而してこの境界は一分一厘違はぬ正確な真の境界であると断言することは出来ないが真の境界か、或は真に極めて近い境界であるといふことは鑑定書により明白である。鑑定書P76には『公図上の筆界と現況図上の線状の現況とが、既述のような程度においてそれぞれ対照を行うことが可能であるという事実は現況図上の線状の現況を「筆界」または「筆界に極めて近いもの」と認めて論議を進めることが可能であることを示しているといえる』と書かれてある。

又現地に表示された<図省略>の境界に於ける位置の誤差(ずれ)はその線を中心に東と西にそれぞれ三〇糎(0.5粍の六百倍)程度であるといふ事は鑑定書により明白である。鑑定書P117(三)には『d4(係争境界の南端点(二)点)の位置を現況図上で求めると「四〇六〇の三」に存する家屋の附属施設と見られる井戸からほゞ南方に向う堀の西側の南端に近くそのすぐ西側附近に存することになる。而しながら(二)に記したように表示及側定上の誤差が存するとすれば其点を中心に東と西とにそれぞれ、0.5ミリメートル程度の位置のずれが存するかも知れない』と書かれてある。

以上により境界は明瞭に判明している。

鑑定書による境界が一分一厘違はぬ正確な境界でないから境界は不分明であるといふ判決理由は甚しい誤りである。人間は神様ではない一分一厘違はぬ正確な境界を表示することは不可能である。併しそれを理由に不法境界(固有の境界と甚しく相違した和解の境界<図省略>を以つて固有の境界(真の境界)とすることは出来ない。境界につき争があつた場合、は固有の境界に極めて近い線を求め(人間の能力に於て為し得る限度の正確さを有すればよい)これを以つて固有の境界と為すべきは当然の理である。然るに裁判官が固有の境界に極めて近い<図省略>の線(鑑定の境界)を不正確であるとの口実を設けて否定し固有の境界と甚しく相違した<図省略>の線(和解による境界)を以つて固有の境界であると判決せられたのは甚しい誤りである。

<図省略>に於ける誤差は僅かにmm±0.5(即ちcm±30(mm0.5の六百倍)であるのに(鑑定書P110・P117)<図省略>に於ける相違は(イ)点に於て5.95m(ハ)点に於て3.58mもある。(検証図参照)それのみならず線の形状に於ても固有の境界は<図省略>の二屈折線であるのに<図省略>は一直線で、一目しただけで固有の境界でないことが明白である。<図省略>を以て固有の境界であると判決せられたことは、土地台帖法を無視するもので法令違反である。又最高裁判決判例違反である。(甲第八号証参照)

第十二点公図の示す境界と北に於て5.95m南に於て3.58m相違した和解による<図省略>の線を以つて固有の境界であると判決したことは最高裁判決判判例に違反することは勿論であるが又重ねて民法第九五条に違反するものである。判決理由(三)にはこの和解を以つて「錯誤ではない」かのように書かれてあるが乙第一号証による境界協定は民法第九五条により、無効である。上告人は第一土地の中に<図省略>の境界を区画してその一部を売渡したのではない(勿論只でやつたのでもない)第一土地と第二土地との境界を<図省略>の線と錯誤したに過ぎない。境界鑑定の結果<図省略>の線が固有の境界でないことが判明した以上「錯誤である」ことは明白である。上告人は乙第一号証による境界協定は民法第九五条により無効であると数回に亘り申立をしている(第二審準備書面控第一号P.3第二号P.4・P.5第八号No. 5・No. 6・No. 7第九号No. 3六等是非お読み下され度)。裁判官がこれ等一切を黙殺隠蔽しておられるのは不公正である。

第十三点判決理由四の(二)(三)に於て弁天稲荷が「四十年前からあつた」といふ証人沼上藤太郎の偽証を援用しておられるのは不公正である。右証言には何等客観的裏付の証拠はない。のみならず反証の客観的裏付がある。即ち訴外新蔵が第二土地を所有したのは大正十五年二月八日である(甲第五号証)弁天稲荷は其後に設置せられたものである(沼上藤太郎証人調書十二、十三、参照)而して右証言が為されたのは昭和三十三年六月九日であるから最大限三十三年前で、それ以上になる筈はなく四十年前といふのは被上告人と証人とが合意の上での偽証であることは明らかである。訴外新蔵が訴外鈴木東作から買受けたのは公法上の境界<図省略>である。<図省略>であつたといふ証拠は何一つない。

鑑定書P90(イ)には公図成立の当初からこの係争境界の位置は公図上に表示されていたのであり、少くとも公式記録の上に於ては其後の変更が存しない境界である」と書かれてある。訴外新蔵は大正十五年二月八日第二土地を買受けた後境界にあつた桑の木を抜き取つて境界を隠滅毀損し其東に堀を掘りウツギを植えて偽装境界を作り侵奪地に弁天稲荷を設置したのである。(沼上藤太郎証言調書十二、十三、十六、十七参照)裁判官が沼上藤太郎の証言中偽証であることの明らかな「弁天稲荷は四十年前からあつた」のみを援用して不法侵犯の証拠となる証言(前記調書十二、十三、十六、十七)をことさらに隠蔽黙殺して、弁天稲荷、ウツギの垣根等が恰も大正十五年前公図作製当時からあつたかの如く書いておられるのは甚しく不公正である。

第十四点甲第十一号証が真正であることは沼上藤太郎証人調書を検討すれば明白であるにもかかはらず、裁判官が敢えてこれを究明せず棄却しておられるのは不公正である。尚、調書二十に「多分その印は私の息子が押したものだろうと思います」と書かれてあるがその息子は四つや五つの子供ではなく四十歳を越えた分別盛りの壮年者、訴外松次郎であり、印は藤太郎自身の面前で押されたものである。このことは屡々申立てたのに(準備書面控第三号P.6)、裁判官が之を黙殺しておられるのは不公正である。

甲第十一号証が真正であることは境界鑑定の結果(二)点(公図d4)が堀の西側に位置したことによつても証明出来る、甲第十一号証と鑑定の結果は相互にその真正であることを証明し合つているものである。

第十五点判決理由四の(三)に於て<図省略>の境界は境界としての外観を伴つているから正しい境界であると書かれてあるが、境界らしい外観を作り上げたのは不法者の訴外新蔵であることを殊更に黙殺しておられるのは不公正である。

土地台帖法細則第二条には「公図は区画(境界)及地番を明らかにするものである」と書かれてあるが、弁天稲荷が四十年前からあつたら境界であるとかウツギの垣根があつて境界らしい外観を伴つていたら境界であるとはどこにも書いてない。併し上告人は<図省略>が大正十五年頃の境界の外観を今尚残存している事実を申立て、傍証とする。

(1) 、(ト)点(稍西)にあるこうぞの木は物凄く太く大きく老古木の観がある。大正十五年二月八日以前(訴外鈴木東作が第二土地を所有していた頃)はこれが境界木であつたと推定される。

(2) 、(イ)点のこうぞの木並に(ト)(イ)間のこうぞの木はいづれも(ト)点のこうぞの木より遥かに細く若く幹の太さは約半分である。判決理由に稍々細いとあるのは嘘である。この細いこうぞの木は訴外新蔵が大正十五年二月八日以後偽装用に植えたものと推定される。

(3) 、(ト)(ヘ)線上(稍西)の雷電木は物凄く高く聳え大正十五年二月八日以前はこれが境界木であつたと推定される。

(4) 、(ヘ)点に接して古井戸がある大正十五年以前はこれが境界であつたと推定される。

(5) 、(ヘ)――(ト)に沿うて斜にコンクリートの古流しの遺跡が残存している。大正十五年以前はこれが境界であつたと推定される。

(6) 、堀の西南の岸がくずれているがこれは提訴前迄残つていた桑の根株(二株)を提訴後被上告人一族の者が取り去つた跡である。(準備書面控第三号P.7参照)

(7) 、以上に見られる様に鑑定による境界<図省略>(公図の示す境界)は境界としての外観を今日尚残存している。この事実は鑑定書P.90の「係争境界の位置は地押調査の当時に於て何等かの意味に於て特徴のある自然的又は人工的な境を形成していたとの疑が存する」と書かれてあるが之れを裏付けしているものである。

(8) 、判決理由(三)の<図省略>線上に沿うてうつぎの垣根があるといふのは嘘である。うつぎの垣根は<図省略>線上にあると度々申立てゝいる(被控訴人昭35、10、17付準備書面三、並に昭36、2、1付答弁書1参照)

(9) 、弁天、稲荷は<図省略>線上にはない。

(10)、(イ)点のこうぞの木は前記の通り細く若く幹の太さは(ト)点のこうぞの木の半分である。

別紙

図<省略>

第十六点判決理由二に於て公図が正確でないとして七項目の理由が書かれてあるがこれは公図が不正確なのではなく現況が狂つて来ているのである。各項に付釈明する。

1、第一土地の東側の境は現況境界が誤つているのである。これは昭和二十一年上告人が第一土地を買受けた際訴外沼上藤太郎が境界をゴマ化したのである(沼上藤太郎はこのことが暴露するのを恐れて証人尋問の際偽証した)現在該地に於ける現況は麦畑とに分れf42・e12・e11の突出し右三角形の外観が今尚現存している。裁判官は現地検証をせられたのにもかゝはらず之を黙殺しておられるのは不当である。

2、これは荒川土地区画整理、計画当時f2からf31迄の線の書き入れを遺脱したものである。然しこの線の遺脱は係争境界の表示に影響を及ぼすものでないことは、鑑定書P.113・P.114に書かれてある。又この線の遺脱を以つて公図を否定する資料とすることは出来ない。

3、公図d3点に於て四筆の土地が相接しているのに現況図にはかゝる点が認められないとあるが、之れは被上告人が西方境界に於ても約六米不法侵犯をして境界を狂はせているからである。公図のd3に対応する現況図の地点で7Dであるこれは公図を現況図の上に重ねて見れば一目明白である。この第二土地西方の境界は第一審に於て原告橋上近四郎との間に争はれた境界である。第一審の荒井徳次郎裁判官が強引に境界鑑定を行はず公図の境界と約六米も相違した境界を以つて真の境界であると判決した誤りの境界である。公図を現況図の上に重ねて見れば被上告人が東、西、南の三方の境界に於て不法侵犯行為を為し境界を狂はせている有様が如実に現はれていることがわかる。上告人はこの事実を実地検証の際申立てをした。準備書面控第八号其他にも度々書いてある。裁判官が之を黙殺しておられるのは不公正である。

4、鑑定作業(現況測量)が行はれたのは昭和三十三年二月で熊谷市、荒川区画整理計画実施前であつた、昭和三十五年九月頃荒川土地区画整理計画が実施され(道巾が六米に拡げられた)本件土地、地区(4060-3・4028-1・4027-1・4011-1・4010-1等)とその北側の市道との境界は公図の通りに訂正された従つて昭和三十五年九月以後の現況に於てはF52と公図のf52とは大体一致している。(併しF52の位置のずれは係争境界の表示に影響を及ぼすものでないことは鑑定書P.14(五)により明白である。)F52とf52が一致したことによりE16・E15・E23・E24とe16・e15・e23・e24とも亦大体一致している。

5、e14とE14χとが狂つているのは4027-1と4026とは同一人の(沼上藤太郎)所有である所から狂つたまま放置されているものである。

6、水路の変形を以つて公図を否定することは出来ない。公図が作成されてから九十年にもなる。其長い年月の間に水流、自然力等によつて水路が変形するのは当然のことである。又個人の手で使用に便なように変形されることもある現に第一土地の南側境界の水流は公図にはない。之は水田用として個人の手で作られたものである。第二土地の東南西南に存在する堀池等も公図にはない。之は訴外新蔵、清三が掘り上げて第二土地の埋立に用いたものである。

現況は個人の手自然力等により年々歳々変動する。然し公図は法的処理による以外は変動しない。変動した現況を基準にして、変動のない公図を否定するのは大なる誤りである。(鑑定書P.41参照)

7、公図d4点が現地に明瞭な点がないと書かれてあるが之は訴外新蔵が隠滅したからである。明瞭な点が隠滅されたから本事件裁判が提起され且境界鑑定が行はれたのである。明瞭な点が残されていたら境界鑑定の必要はないのである。

第十七点提訴前d4附近に桑の根株が二個残存していたが提訴後被上告人の一族の者が之を取去つたことは前記の通りである。(準備書面控第三号P.7参照)右釈明により判決理由二の末尾「本件公図の形状を根拠として別紙図面表示の(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(本件公図d4・e1・e2・f31)点を順次結ぶ線が第一、第二土地の境界であるとの控訴人の主張は認められない」といふのは誤りである。

以上は上告人が釈明する迄もなく既に鑑定書により完全に検討済の事である。何等専門的知識を有しない裁判官が鑑定人に代つて誤つた判断を為すべきではない。裁判官は鑑定書の判定の結果を採用すればよいのである。境界は公法上のものである。裁判官の考へ方によつて勝手に決めるべきものではない。鑑定書により

〔1〕 公図はすぐれた内容を有していて其精度は意外に良好である(P.25・P.38・P.39・P.45・P.46等)

〔2〕 公図に示されている係争境界の位置を現況図上に(現地)に求めることが可能である(P110)

〔3〕 表示された境界に於ける誤差は地図上に於てmm±0.5程度である(P.110・P.117)

〔4〕 表示された境界は筆界(固有の境界)か或は筆界に極めて近い境界である(P.76)

等のことが判明している。

然るに何等専門的知識を有しない裁判官が境界鑑定上大した影響を及ぼさない些細な事を種に日本屈指の鑑定人大久保武彦氏が二ケ年余という長年月を費して鑑定せられた境界(公図の示す固有の境界<図省略>を否定せられ固有の境界と甚しく相違した和解による境界<図省略>を以つて固有の境界であると判決せられたのは甚しい誤りである。

公法上の固有の境界を裁判官が勝手に移動したことは法令に反するものである。

上告人は<図省略>の線が固有の境界であるといふ法的証拠と其理由が提出せられない限り<図省略>の線を以つて固有の境界と認めることは絶対に出来ない。徹底的に争う法意である。

請求の趣旨

第一土地と第二土地との境界は公図の示す境界<図省略>(鑑定による境界)である。

被上告人は境界を公図の示す境界に訂正せよ。而して不法侵奪地を上告人に返還せよ

訴訟費用は第一、二、三、審共被上告人の負担とする。との御判決を求めます。

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