東京高等裁判所 昭和36年(ネ)1405号・昭36年(ネ)1404号 判決
さて、土地賃貸人が賃借人において賃借地の一部を賃貸人に無断で第三者に転貸したことを理由に賃貸借を解除し得る場合、原則としては目的土地の全部につき賃貸借を解除し得るものと解されるのであるが、本件の如く賃借地を適法に転貸していた賃借人が賃借地の一部を従前の転借人と異る第三者に対し賃貸人の承諾なく違法に転貸した場合、賃貸人は右違法転貸を理由として目的地全部につき賃貸借を解除することは許されるであらうか。思うに、かゝる場合に全部解除を認めると通常の場合適法な転借人の権利が不当に奪われることになること竝に法律上一部解除の可能点なを考慮に入れるときは、原則としては全部解除は許されないものというべきであり、たゞ転借人が権利を失つても敢て不当と認め得ないような特別の事情があるときに限つて賃貸人は目的土地全部の賃貸借を解除し得るものと解するのが相当である。今これを本件についてみるに、前示乙第七号証と弁論の全趣旨によれば、本件土地の適法な転借人たる控訴人川木工業株式会社は、控訴人高村貞己の個人営業を節税対策上会社組織とするために設立されたもので、その資本は事実上控訴人高村貞己が全部出資したものであり、法律上は右控訴人と別個の人格を備えること勿論であるが、実質的には右控訴人と同一視できる所謂個人会社に過ぎないこと、控訴人高村貞己がその妻高村トシ子に対し原判決別紙第三物件目録(七)記載の土地を転貸したのは右土地上に建築した右控訴人所有の建物を便宜上妻トシ子の所有名義にしたからであつて、右土地の転貸なるものは全く形式的なものに過ぎないことがそれぞれ窺われる。しかして被控訴人に対する本件土地の賃料支払は当初から控訴人川木工業株式会社がしていたこと及び右控訴人会社は昭和二六年ころから営業不振に陥り、本件土地の賃料すら支払い得なくなつたことはすでに認定したとおりであり、控訴人高村貞己が昭和二六年一月分以降の賃料を全く支払つていないことは、控訴人両名の明らかに争わないところであつて、控訴人両名において自白したものと看做されるところである。以上のような事情からみるならば、本件においては賃借人たる控訴人高村貞己による本件土地の一部無断転貸を理由とする本件土地全部についての賃貸借の解除を肯定することによつて適法な転借人たる控訴人川木工業株式会社ないし高村トシ子がその権利を失うとしても、それはなんら不当ではないというべきである。以上認定の事情を考慮するときは、被控訴人は控訴人高村貞己による前叙の如き本件土地の一部無断転貸を理由として本件土地全部につき賃貸借を解除することができるものといわざるを得ない。
(鈴木忠 加藤 宮崎)