大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2250号 判決

昭和三五年七月一三日東京法務局所属公証人玉井又之丞によつて作成された主文第一項掲記の公正証書には、控訴人を請負人、被控訴人を注文者として、「第一条請負人は昭和三五年四月一六日注文者のため建物新築工事を完成することを約し、注文者はその仕事の結果に対し請負人に報酬を支払うことを約した。第二条工事完成の期限を昭和三五年七月一五日までと定め、工事着手期日を本契約締結の日より五日以内とする。第三条工事請負代金を金一五〇万円と定め、注文者は本契約締結と同時に金五〇万円、昭和三五年七月一五日までに金一五〇万円、工事全部が竣成し、工事結果の引渡を受けたときに残額五〇万円を支払うものとする。第六条工事の全部が竣成し所轄官庁の検査に合格したときは完成の日より一〇日以内に請負人は仕事の結果の所有権全部を注文者に移転し、且つ物件の引渡を了するものとする。第八条請負人において左記の場合の一に該当したときは注文者は直に本契約を解除することができる。(一)第二条所定期日から工事に着手しないときまたは同条の期間内に本工事を完成することができないとき。(二)請負人が一方的に本契約を履行しないとき、その他本契約に違反したとき。第九条請負人において前条により本契約を解除されたときは既に受領済みの報酬金は直にこれを注文者に返還するほか、解除の日の翌日から返還に至るまで一〇〇円につき日歩一銭六厘四毛の損害を賠償すること。第一三条注文者、請負人らにおいて本証書記載の金銭債務を履行しないときは直に強制執行を受けても異議ないことを認諾する。」等の記載のあることは当事者間に争いがないものと認められる。

そこで、右公正証書が果して民訴第五五九条第三号にいう「一定の金額の支払い」を表示しているものと認めうるかどうかすなわち控訴人が当審において追加的に申し立てた執行文附与に対する異議の当否について考えてみる。

およそ公正証書が債務名義となりうるためには、その証書に金額が明記してあるか、或いは、証書自体からその金額の算出が可能でなければならないから、証書以外の文書その他証拠資料をもつて補足するのでなければ金額を特定できないような公正証書は、強制執行の基本とならないものと解すべきである。

ところで、被控訴人は昭和三五年七月一八日控訴人との間の請負契約を解除したことによつて控訴人から返還を受くべき請負代金額は同月八日現在において合計一、五七八、五九一円に達し、右金額は本件公証書自体から算出が可能であると主張するもののようである。

しかし、本件公正証書第三条の記載の趣旨は、注文者である被控訴人が請負人である控訴人に対し負担する請負代金債務につきその履行の方法を定めたものと見るべきであつて、被控訴人から右債務の履行として同条所定の日時、所定金額を現実に控訴人に支払つたことは何ら表現されていないものと解せられる。すなわち、その表現されているものは、右債務の履行として現実に支払いのなされた金銭ではなく、その履行を約束された将来の金銭であり、従つて、それが果して請負契約の成立と同時に授受されたか、その後において授受されたか、授受された額も、その日時も本件公正証書自体から把握することも、算出することもできないものというほかない。それ故、被控訴人が請負契約を解除したからといつて、控訴人から返還を受くべき請負代金額は、結局右証書以外の資料をもつて補足し証明しなければならないことになる。

(大場 町田 下関)

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