大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2526号 判決

以上認定した事実から考えてみるのに、借家人たる被控訴人の同意なくして、本件建物の敷地内にバラツクを建てて、やお屋を始めたことは穏当を欠くものであつて、右バラツクが狭いからというだけの理由で本件建物の明渡を求め得るものでないことは、いうをまたないことである。しかし控訴人の親権者たる並木てる子が夫の死後控訴人とその妹の二人の子をかかえて、生計をたて、かつその居住の場所を求める必要があり、本件建物はそれがため控訴人が祖母ルイから贈与を受けたものであつて、てる子はそこでやお屋を経営して生活の資にするとともに、そこを親子三人の居住の場所にしようと考えているのである。現在妹の夫豊忠吉の好意で豊方の四畳半一室を月二、五〇〇円で借り受けているが、狭きに過ぎるばかりでなく、それとて豊方では明渡を希望しており、いつまでもそこに居住し得る状態ではなく、ましてそこで商売をして生計をたてる余地がなく、前記バラツクも甚だ狭して、そこに居住し商売をすることの困難なことも明らかである。しかも本件家屋の所在する土地は人通りも相当多く、商店として使用するうえに適した土地である。

他方被控訴人は家族の数も多く、これだけの人数の家族の住み得る安い家を他に求めることの困難も推測できないわけではなく、永年住み慣れた地を去ることの不便も考えられない訳ではない。しかし被控訴人は神田方面に勤め、三人の女の子も他へ勤めているのであつて、ここに住まなければならない事情はない。そして被控訴人も三人の女の子も他へ勤めて収入を得ている情況からすれば、被控訴人の生計もそれほどさし迫つたものとは考えられない。もともと本件のように一六坪の家を賃料月一、五〇〇円そこそこで貸すような人はなく、このような家を他に求めても求め得ないことは明らかであるが、それだからといつて、貸主の前記さし迫つた事情を無視して、建物の明渡をいつまでも拒み得るものではなく、控訴人の提供する一〇〇万円の金があれば、他に相当な貸家を求めることは困難でないばかりでなく、むしろ一〇〇万円の提供は本件の場合過ぎたものとさえ考えられる。したがつて一〇〇万円の提供と引き換えに本件建物の明渡を求める控訴人の解約の申入は、家屋明渡の正当の事由あるものといわなければならない。

(二宮 千種 太田)

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