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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2543号 判決 1962年7月30日

控訴人(被告) 鹿島町

被控訴人(被告) 加藤茂正

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次のとおり附加するほか原判決の事実摘示を引用する。

(控訴人の主張)

町が歳入歳出予算を以て定めるもの以外に新たに義務を負担するには議会の議決を得なければならない(地方自治法第九六条一項八号)。従て被控訴人が本件和解条件を実行したとしても直ちに町に対し本件金員の支払を請求し得るものではなく、町長が議会に対し右金員支払のため追加予算を計上して承認を求め、議会の承認を得て初めて町に対し請求し得るものというべきである。本件においては未だ右手続を経ていないのであるから被控訴人の本訴請求は失当である。

(右に対する被控訴人の主張)

本件示談契約における合意は、被控訴人の助役解職処分無効訴訟を取下げ、宮司官舎の立退きの完了次第即時金員を支払う旨の約束であつて、右金員支出につき追加予算を組みこれを町議会に提案してその承認決議があつたときにはじめて支払うというのではない。被控訴人は右訴の取下げおよび宮司官舎の明渡を完了しているのであるから控訴人は当然本件金員の支払義務がある。町長黒沢義次郎がその権限にもとずき控訴人を代表して本件示談契約を締結した以上その示談契約に伴う支出について町長が予め議会の議決を経ようと専決事項として支出した後に議決を求めようとそれは被控訴人の関知する限りでない。殊に示談金の内訳は昭和三十三年十二月の助役給料および同月分暫定手当、同月期末手当、助役退職一時給与金であるからこれの支出につき地方自治法第九六条第一項第八号によつて議会の議決を経た後に被控訴人が初めて町に対し請求し得るというのは失当である。と述べた。

(証拠関係)<省略>

理由

当裁判所は被控訴人の請求を棄却すべきものと判断するものであつてその理由は次に記すとおりである。

一、被控訴人の第一次の請求について

当裁判所は、右請求を理由ないものと考えるものでその理由は原判決理由一ないし三に記すところと同一であるからこれを引用する。

二、被控訴人の予備的請求について

当裁判所は右請求も理由ないものと考えるものであつて、その理由は左記のとおりである。

(一)、第一次の請求に関する原審の認定からすると、控訴人町長黒沢義次郎と被控訴人との間になされた金員支払の合意は被控訴人に昭和三十三年十二月分の助役給料、暫定手当等それ自体の支払を約束したものでなく、これらと同額の金員を示談金として支払う旨の趣旨であることが明白である。

(二)、すなわち控訴人町が被控訴人に支払うべき十一万千二百四十円の算出の基礎は被控訴人の昭和三十三年十二月分の給与、暫定手当、期末手当並に退職一時金の数額が基礎となつているけれども、被控訴人に対する解職処分が原審認定の通り取消されない以上、右金員は示談契約によつて始めて控訴人町が負担すべく定められたものと言わざるを得ず、右は地方自治法第九六条第一項八号に定められている「歳入歳出予算を以て定めるものを除く外、あらたに義務の負担をし」たものに該当するものというべきである。しかして控訴人町長黒沢義次郎が本件の示談契約をしたのは同法第一七九条、第一八〇条に所定の町長の専決処分事項としてなしたものとの主張も立証もなく、また右負担金の支出について控訴人議会の事前はもとより事後においても議決を経ていないこと並に本件示談契約について被控訴人が右議決を経ていない事情を知つていたことは、原審における控訴人代表者黒沢義次郎(第二回)、同被控訴人本人各尋問の結果及び原審並に当審証人給前一也の証言により明かである。ところで町長の行為といえども予算外の義務の負担となる行為については前記地方自治法第九六条第一項八号に基き議会の議決を要すべく、右議決を欠くときは該行為は無権限の行為として無効と解すべきである。従つて黒沢義次郎が控訴人町長としてなした本件示談契約は町の行為として効力を生ずるに由なく、控訴人は本件負担金支払の義務がないものであつて、この点よりして被控訴人の本訴請求は他の争点について判断を為すまでもなく、既に失当というべきである。

よつて原判決を取消し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木忠一 谷口茂栄 加藤隆司)

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