東京高等裁判所 昭和36年(ラ)601号 決定 1962年8月30日
抗告人 星野五三郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨ならびに理由は、別紙記載のとおりである。
競売法第三二条第二項により準用される民事訴訟法第六八七条の規定によれば、競落人に引渡命令を求める権利を付与して競落不動産の占有を取得する途を開いているが、引渡命令の制度は、競売裁判所が競売手続の附随的手続として簡易に処理するにも適当なものとして設けられていることにかんがみれば、引渡命令の申立は、申立の時期の点においても右制度上の制約を免れないといわねばならない、すなわち、引渡命令の申立は、右附随的手続たる性格にもとらないよう競落代金完納後相当の期間内に申し立てることを要するものと解される。本件についてみれば、抗告人は、横浜地方裁判所昭和二四年(ケ)第二五号不動産競売事件において別紙日録<省略>記載の不動産につき同二五年六月一七日競落許可決定を受け、その確定をまつて同二五年八月三〇日に競落代金を完納したが、引渡命令の申立をしたのは同三六年八月一四日であることが記録上認められるのであつて、本件引渡命令の申立は、競落代金完納後ほぼ一一年後に提起されたものであり、引渡命令を申し立つべき相当の期間経過後の申立にかかるものというほかない。されば、右引渡命令の申立は不適法のものであつて、これと同趣旨の原決定は正当である。
よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。
(裁判官 原増司 多田貞治 吉井参也)
別紙
抗告の趣旨
原決定はこれを取消す
相手方は別紙目録物件を抗告人に引渡せ
との決定を求める。
抗告の理由
一、原決定は、抗告人の引渡命令の申立に対してその理由として「競売法第三二条民事訴訟法第六八七条による引渡命令の申立は競落人において代金支払後遅滞なくこれをなすを要するものと解するを相当とする」として抗告人の右申立を却下した。
二、しかし、元来民事訴訟法第六八七条引渡命令の規定は、競落許可決定により、当該不動産の所有権を取得した者に対し債務者及びその者から競落後に占有を承継した者に限り、これらの者に対して、競落人に別訴によらずして、執行法上の権利として当該所有不動産の占有の引渡を請求し得る権利を附与したものと解すべきである。
三、しからば民事訴訟法第六八七条引渡命令の本質は当該不動産の競落許可決定に附随して裁判所により有権的に所有権を有する者と確定された者が、その競売手続の延長として不法な占有者即ちその不法性がその地位自体から顕著である債務者とこれに準ずる占有承継者に対して所有者として当該不動産の占有を取得せんとするところにあり、何ら実体上占有すべき権原の有無を問題とするものではない。
四、したがつて、民事訴訟法第六八七条引渡命令は債務者であるかまたは競落人に対抗し得ない第三者であることが認定される限り、裁判所は競落許可決定により所有権を取得した者に対し引渡命令を附与すべきであり、右競落人の代金支払時期と引渡命令申立の時期との期間の長短は、前記の如き引渡命令の本質から、何らその発布の障害となるものではない。
五、しかしながら、原決定は前記理由において明らかなとおり、遅滞なく引渡命令を申立ないかぎり民事訴訟法の第六八七条の引渡命令を附与し得ないものと法律を誤解したものであり、違法といわねばならない。
六、よつて、抗告人は前記法条の本質を把握され、速やかに原決定を取消されるよう抗告するものである。