東京高等裁判所 昭和36年(ラ)759号 決定 1962年5月22日
再抗告人 大久保正雄 外一名
主文
本件再抗告はいずれも棄却する。
理由
本件再抗告の理由は別紙再抗告理由書記載の通りである。
本案につき終局判決があつた後訴を取下げた者は更に同一の訴を提起しえないことは民事訴訟法第二百三十七条第二項の明定するところであつて、この場合終局判決が原告勝訴の判決であると原告敗訴の判決であると又訴の取下の動機いかんにより訴の取下の効果に差異を来たすものではない。
本件において再抗告人両名は担保の権利行使として担保提供者保坂俊雄を相手取つて甲府簡易裁判所に損害賠償の訴(同庁昭和三四年(ハ)第四三四三号)を提起し勝訴判決を得たが、被告保坂俊雄より控訴し、控訴審に係属中訴を取下げてしまつたのであるから、再抗告人両名はもはや担保提供者保坂俊雄を被告として右と同一の訴を提起しえないことは前述の通りである。したがつて再抗告人両名は担保提供者より権利行使の催告を受けてもその権利を行使するに由ないものと謂わねばならないから、かゝる場合は担保の事由がやんだものと解するのが相当である。よつてこれと同旨の原決定は相当であつて本件再抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、主文の通り決定した。
(裁判官 岡崎隆 室伏壮一郎 安岡満彦)
再抗告理由書
一、訴の取下は請求の放棄と異なるので、終局判決後の取下は再訴できないからという事由のみをもつて、請求の放棄とみて、原告敗訴の確定と同視すべきではない。
しかるに甲府簡易裁判所は同庁昭和三六年(サ)第四六号及び第四七号担保取消申立事件について、再抗告人等のなした取下は終局判決後の取下であり、右担保物に対する担保権の行使としては、もはや再訴できないので担保事由消滅したとの理由により民事訴訟法第一一五条第一項により担保取消決定をなしたので抗告の申立をしたのであるが、原審も同じ理由を以つて担保取消決定に対する抗告は理由がないとの解釈は相当でない。
二、即ち担保権利行使のための訴訟で担保権利者が敗訴確定すれば民事訴訟法第一一五条第一項の担保の事由が止んだことになるが、担保権行使の期間内に起訴して勝訴判決を得た後控訴審において訴の取下をなした場合殊に取下の縁由又は動機として極めて稀有な特殊事情が介在している場合は、その取下により当然に請求の放棄とみるべきでなく、尚且つ民事訴訟法第一一三条の「担保に対する被告の権利」までも消滅するものでないので、当然に担保取消に同意のあつたことになるのではない。従つて担保の事由が消滅したとは断じ得ない。
むしろかゝる取下後は担保提供者は改めて同意を求むべきである。
しかるに原審において、再抗告人等のなした終局判決後の訴の取下の効果(民事訴訟法第二三七条第二項)のみを以て担保の事由が消滅したことはまことに相当であるとの形式的判断をしたのは右法条の解釈並びに適用を誤つたもので違法である。
三、以上要するに原決定は民事訴訟法第一一三条、第一一五条第一項第二項第三項第二三条第一項第二項等の解釈並びに適用を誤つた違法があり、これは原決定に影響を及ぼすこと明らかであるから、原決定の取消を求める。