東京高等裁判所 昭和36年(ラ)840号 決定
一、本件抗告の趣旨および理由とするところは、末尾記載のとおりである。
二、決定につき違算、書損その他これに類する明白な誤謬があるとして、民事訴訟法第二〇七条、第一九四条により更正決定をするためには、決定の全趣旨より推究し、または決定の基本たる訴訟資料と対照して、誤謬があることが明白である場合であることが必要であるといわなくてはならない(昭和五年(ク)第七八九号、同年八月九日大審院第四民事部決定参照)。ところで、本件長野地方裁判所飯田支部昭和三五年(ヨ)第二一号実用新案権侵害行為禁止仮処分決定自体において、それに添附されたイ号図面が原更正決定添附のイ号図面の誤謬であることをうかがわしめるに足る何らの形跡がないことは、もちろん、右仮処分申請事件記録と対照してみても、そのような誤謬のある事実が明白でない。すなわち、右仮処分決定申請書に添附されたイ号図面(記録三丁)も仮処分決定添附の図面と同一であり、右決定の重要な疏明資料になつたと推測される弁理士奥山恵吉作成の鑑定書(疏第四号証)に添附のもの(記録一〇丁)もこれと異ならない。さらに、これら各図面に添附した説明書あるいは前記鑑定書の説明をみても、図面に誤まりがあり、原更正決定添附のイ号図面を説明したものであることを思わせる何らの記載がない。
もつとも、本件仮処分申請事件記録には、疏第七号登録のないものとして、原更正決定添附のイ号図面のものに相当する二重袋が封入されているが(記録二三丁)、前記申請書および鑑定書の説明と対照し、それが本件仮処分の対象であるイ号図面の実物であつて、前記各書面に添附した図面は誤まりであることを推測させるべき何らの根拠がないので、これをもつて前示判断を左右することができない。
そして、本件仮処分決定添附のイ号図面に表示された二重袋と原更正決定添附のそれとを比較すると、前者における内袋の上側開放面は一律に高低がなく、またその下部は外袋と重ねて縫い合わされているのに対し、後者における内袋の上側開放面は、その半面が他の半面よりいく分低めに切り下げられてあり、かつその下部は縫い合わされず、外袋中において開放されたまゝであるの差異があることが明らかであつて、実用新案権の権利範囲としての判断はともかくとして、両者は構造上全然同一であるということはできない。
三、本件仮処分決定に明白なる誤謬があるとしてそのイ号図面を原決定添附図面のとおり更正を求める相手方の申立はその理由がなく、これを容れた原決定は違法であつて、とうてい取消をまぬがれない。
よつて、原決定を取り消し、相手方の更正決定申立を却下する。
〔編註〕本決定は左の抗告理由に対する判断である。
一、原裁判所は昭和三六年十月三一日附をもつて突如として本件仮処分の基本である別紙「イ号図面」につき更正の決定をして来た。然しこれは一体どう云うことであろうか。
既に決定に添附された「イ号図面」で仮処分を終了した後にこれと異る「イ号図面」を更正決定をすると云うことはこれは更正決定では許されないことである。
即ち本件決定の重大な誤ちは権利範囲に属する抗告人製造に係る防菌袋なりとして実は被抗告人が自ら作成していた防疫二重袋並にその図面を被抗告人は裁判所に提出した。
二、裁判所は抗告人が製造している防菌袋として実用新案公報に出されている被抗告人が自分で作製している防疫二重袋を判断の対象として製造販売禁止の仮処分をしてしまつている。
これでは全く裁判所をペテンにかけたものである。
誰が見ても甲が製造している自分の紙袋そのものを乙が製造しているとして裁判所を誤らしめておいて乙に対し紙袋の製造販売の仮処分をしてしまつておいて、実はあれは間違つていました、実は乙の製造していたものはこれでしたとして違つたものを提出してそれが単に更正で許されるのが如きは全く不当である。
三、裁判所は明に重大な錯誤に陥つたものであつて裁判所の判断は全く無効と言わざるを得ない。
而も仮処分によつて保護される被抗告人の権利は実用新案であつて極く簡単な型態上の差異が問題になるのに自分の作つているもの自体を相手方が作つていると称して裁判所を誤判させそれが天下を大手で通ることが許される筈はなく、斯の如きは他人の財産権を不当侵害するもので断じて民主主義の原則からして許されざるところである。
四、而もその決定をもつて仮処分をうけた上下伊那地方の農民は裁判所の決定添附の図面で示されているものと異つた袋の使用禁止の仮処分をうけているのであつて、当惑するのは当然である。
こんなことが許されるのは徳川時代の封建の領主の切り捨て御免のやり方でどんな無理間違があつても裁判所のやることは許されると云うことになり、とうてい民主主義的時代に許されることではない。従つて本件仮処分の執行自体効力の発生しておらぬものである。
五、以上の理由により原決定は明に不当のものであり、これが決定は取り消されなければならないものである。
依つてここに抗告の申立をする。