東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)144号 判決
原告がその主張のとおり旧商品類別第三八類清酒その他本類に属する商品を指定商品として「黄金の」の文字を縦書し、そのやゝ左寄りにこれよりもやゝ大きく「花盛」の文字を縦書して成る商標の登録を得ており、他方被告も原告主張のとおり旧々類別第三九類白酒、味淋、焼酎その他本類に属する商品一切を指定商品として「花盛」の文字をひげ文字風に縦書し、背後に写実的に描出した桜の一枝を配した商標につき、原告の前記商標登録出願前からすでに登録を得ていること、被告から原告主張のとおり原告の前記商標の登録無効審判の請求をし、その審決に対し、原告から本件昭和三三年抗告審判第一六二六号の請求をしたが、昭和三六年九月九日にいたつて、原告主張のような理由のもとに右抗告審判の請求は成り立たないとの審決があり、同月二七日その謄本が原告に送達されたことは、当事者間に争がない。
原告は被告の商標の指定商品には原告がその商標を附けて使用している商品合成酒を含まないから被告は本件審判請求につき利害関係を有しないと主張するので、まずこの点について考える。
旧商標法(昭和三四年法律第一二八号によつて廃止された大正一〇年法律第九九号)第二二条第二項において商標登録無効の審判を請求することができる者の資格を利害関係人および審査官にかぎり、しかも審査官についてはその主張することのできる無効事由をも制限したことは、およそ商標登録は対世的の効果を生ずるので、当然許さるべきでない登録が許されて存在するような場合には何人からでもその無効を請求させてしかるべきであるが、いかなる事由にもとづくにせよ、一旦登録がなされた以上、それにより何らの利害の影響を受けない路傍の人にまで、これにくちばしを容れさせるのは適当でないという立法政策から出たものと解すべきであり、そういう見地に立つて考えれば、無効審判を請求することができるものは、その登録商標を使用する商品と同一商品を指定商品とする商標について登録を得ているものでなくてはならないというように、右利害関係を特殊のものに限定して解すべき何らの根拠がない。そのことは、本件のように旧商標法第一六条第一項第一号、第二条第一項第九号による登録の無効が論ぜられている場合においても、毫も変りはないというべきである。
本件無効審判は、原告の登録商標が被告の登録商標と類似し、かつこれらの商標を使用する商品も類似するかどうかにかゝるものであるから、被告がこれを請求するにつき利害関係を有することは、多言を要せずして明らかなところといわなくてはならない。
よつて、進んで前記両登録商標の類否について考える。
原告の登録商標は「黄金の花盛(コガネノハナザカリ)」なる称呼・観念を有し、被告の登録商標は「花盛(ハナザカリ)」なる称呼・観念を有することは、前記両商標の構成に徴して明らかである。そして前者の「黄金の花盛(コガネノハナザカリ)」なる称呼・観念中、「黄金の(コガネノ)」の部分は「花盛(ハナザカリ)」の修飾語とみるべきであつて、簡易迅速をとうとぶ商取引においては、時にはこれを省略して、単に「花盛(ハナザカリ)」と称呼し、観念されることがあるものと認めるのが相当である。
原告は、「花盛」の語は必らず「……の花盛」として花盛を特定するものがあつて、始めて意味が通ずるものであり、とくに本件のようないわゆる酒銘にあつては「黄金の花盛」の「黄金の」を省略し、単に「花盛」とよぶようなことはありえない、と主張し、証人唐橋幸作の証言中にも原告の右主張にそう部分があるが、証人鈴木伝四郎の証言と対照し、またいずれも成立に争のない乙第一号証の一、二、三(全国合成清酒酒造組合発行の組合員名簿)、同第二号証の一、二(株式会社醸界タイムス社発行の全国酒類醸造家名鑑)、同第三号証の一、二(株式会社日刊経済通信社発行の日刊食品通信昭和三三年七月二二日号の記事)をみても、原告の本件登録商標を単に「花盛」と略称してある事実が明らかであるから、右原告の主張およびこれにそう唐橋証人の証言は採用することができない。
もつとも、成立に争のない甲第九号証(証明書)によれば、前記乙第一号証の三の組合員名簿中の前記記載はミスプリントであることをその作成者である全国合成清酒酒造組合において証明している事実が明らかであるが、原告の本件商標を単に「花盛」とよぶことは、正確なよび方でないことはいうまでもなく、何人もこれをたゞされれば、訂正するにやぶさかではあるまいが、前記刊行物の三つが三つとも、これを単に「花盛」と記載していることは、右商標が取引上往々にして「花盛」と略称される事実を示唆するものといわなくてはならない。
原告の登録商標は、取引上単に「花盛(ハナザカリ)」と称呼し、観念されることをまぬかれず、したがつて被告の登録商標と類似の商標であるといわなくてはならない。
次に両商標の使用商品の類否について考えるのに、原告の登録商標の指定商品は旧類別第三八類清酒その他本類に属する商品であることは、前記のとおりであつて、原告が事実上合成清酒につきこれを使用していることは、前記乙第二号証の一、二、第三号証の一、二および唐橋証人の証言に徴して明白であり、これに対して被告の登録商標は旧々類別第三九類白酒、味淋、焼酎その他本類に属する商品一切を指定商品とするものであること、前記のとおりである。ところで、原告商標の指定商品である清酒、および現にこれを使用している商品合成清酒は、被告の登録商標の指定商品である前記各商品と取引場所その他取引形態を同じくするものであることは、当裁判所に顕著な事実であり、同一製造家が両者を製造している事例も少なくないことは、前記乙第二号証の一、二、三によつて認めることができる、原告会社が清酒、合成清酒のほか被告の登録商標の指定商品に属する焼酎および甘味果実酒をも醸造しており、被告会社も亦合成清酒及び焼酎酒精をともに製造している事実によつて、これをうかがうに難くない。かゝる関係にある商品相互の間には、その余の判断を要するまでもなく、旧商標法第二条第一項第九号にいう類似の関係があるものと認めるのが相当である。(なお、右商品の類否も、当該商標―本件でいえば原告の商標―の登録出願の時を標準として判断すべきであつて、類否判断の対象である他の商標―本件でいえば被告の商標―の登録時の事情のごときは参酌する必要がないことは、いうまでもない。)
原告の本件登録商標は、被告の商標の登録後に登録出願されたものであることは、当事者間に争がなく、右両商標はそれ自身相類似し、かつその使用商品も亦類似することは、前記認定のとおりである。原告がこれに関してるゝ主張するところは、すべて採用することができない。なかんづく、本件両登録商標以外の登録商標に関連しての主張は、本件の判断には関係のないものといわなくてはならない。
原告の本件登録商標は、旧商標法第二条第一項第九号に違反して登録されたものであつて、同法第一六条第一項第一号によりこれを無効とすべきものとした本件審決は相当であり、こを取り消すべき何らの違法のあることを認めることができない。