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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)161号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕一 特許庁における手続の経緯

原告は、一九四八年(昭和二十三年)十月一日ドイツ国においてした特許出願に基づく日独工業所有権に関する協定第一条の規定による優先権を主張して、昭和二十九年十二月二十一日、発明の名称を「翼車推進機」とする発明につき特許出願をしたところ、昭和三十一年八月二十三日拒絶査定を受けたので、昭和三十二年一月二十一日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第四〇号事件として審理されたが、昭和三十六年七月三日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年七月十二日、原告に送達された(出訴期間は同年十一月十一日まで延長)。

二 本件審決理由の要点

当審において訂正された明細書を検討するに、依然として不明個所が多く、結局請求範囲に記載された技術思想が如何なるものか、そのような技術思想を如何なる手段によつて実現するかが不明であり、訂正明細書をもつてしても、本願発明の要旨が明確になつたものと認められず、結局本願は全体として要旨が不明であり、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第一条の特許要件を具備したものと認めることができない。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決が、本願発明は、訂正明細書をもつてしても、その要旨は不明であるとしたことは、判断を誤つたものといわざるをえない。

すなわち、本願発明の願書及び明細書、訂正明細書及び図面、訂正書に特許第一四〇、五六五号明細書及び引用特許の明細書を参酌考量すると、本願発明の要旨は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項に記載されたとおり、

(1) 翼円内に案内中心を有する連桿案内機構によつて翼が推進機軸に平行な軸を中心として制御された揺動運動を受けるようになつているものにおいて、

(2) 連桿案内機構は、案内中心が全速前進もしくは全速後進の位置にある時に、

(3) 翼を接線位置から、最低五〇度で六五度を越えない最大正翼角を経て揺動させ、

かつまた、翼が翼円の前半を、(イ)接線位置から少なくとも一〇〇度と、(ロ)翼の翼基線が推進の方向に直角な翼円の直径上にある案内中心を翼の枢着点に連絡する案内直線に常に垂直になるようになつている厳密な案内直線交叉式翼運動の場合に、(ハ)上記と同じ最大翼角で、(ニ)翼の揺動運動の反転が開始されるべき旋回角との間だけ、(ホ)旋回した時に翼の反転を開始し、

(4) さらにまた、翼が翼円の後半を接線位置から厳密な案内直線交叉式翼運動の時に反転を開始すべき角と二六〇度との間の角だけ旋回した時に反転を開始するようになつていることを特徴とする翼車推進機

にあること、並びに

(イ) 要旨(1)については、本願運動を行なわしめる機構(機構の具体的構成は、本願発明の構成要件ではない。)は連桿案内機構であり、その具体的構成は、特許第一四〇、五六五号明細書(甲第四号証)に示されていること、本願発明の明細書においては、満足な翼角曲線が甲第四号証に記載の連桿案内機構の槓桿腕の長さを適当に採択すれば得られる、とされていること、

(ロ) 要旨(2)については、本願発明は、引用特許発明(以下「引用発明」という。)を改良したものであり、本願発明の明細書の記載によれば、引用発明においては、案内中心の位置により、ピッチがきまり、また、案内中心の位置により、推進機の進行方向がきまることが明らかであり、高ピッチのとき最大翼角は大となり、一方高ピッチ、すなわち、最大翼角を大とすれば、推進機の速度が大となることは、迎角が大となるところから当然のことに属するが、設計上、最大翼角を大とし、前進速度を大とすることに限界があり、前記明細書によれば、「六五度という最大翼角は、構造上実現しうる極限であり、最大効率をもたらすものである。翼角五〇度という最低限界は、厳密な案内直線交叉運動が実際上有利に実現されることのできる翼角の最高限界と一致している」とされていること、したがつて、要旨(2)は、最大翼角の上限のとき、すなわち、引用発明にいう全速前進又は全速後進のときの案内中心の位置と同じ位置に本願発明の案内中心があるときのことをいわんとするものであること、

(ハ) 要旨(3)については、「最低五〇度で最大六五度を越えない翼角を経て揺動させ」とは、最大翼角の範囲を限定したものであり、要旨(3)は、この最大翼角において、翼が反転するときの翼の翼円上の位置を「翼の揺動運動の反転を開始する翼角曲線上の点は、本発明では第二図斜線を施した部分内にある」と限定したものであること、

(ニ) 要旨(4)は、翼円運動の後半について前半と同様に限定したものであり、前半の旋回角一〇〇度は、後半の旋回角二六〇度に相当するものであること

を認めうべく、この認定事実によれば、本願発明の要旨は、明細書等における記述、とくにその技術用語の用法と、その技術的内容の難解さにかかわらず、明瞭なものというべきである。

被告は、本願発明の明細書について、十七項目に及ぶ不明箇所を指摘して、本願発明の要旨を不明とする根拠とするが、その指摘するところは、明細書における用語あるいは表現の不正確さの部分的指摘たるに止まり、以上に説示するとおり、いまだ前認定を左右するに足りるものではない。

(一) の点について

本願発明の訂正明細書には、スクリュー推進機の場合における幾何学的ピッチの定義が示されているが、これによれば、本願発明においては、H/〓Dをピッチ(正確には、翼車推進機においてH/〓Dはピッチ比又は操縦率と呼ばれるべきである。)と定義し、訂正明細書において、一貫して、その定義のとおり使用しているものと解することができ、また、右定義によれば本願発明にいうピッチは、長さの単位で表わされていることはできない。(原告の主張中には、「ピッチ」が引用発明の「螺距」に相当する旨述べているところもあるが、その主張全体に徴すれば、右主張は叙上解釈した趣旨内容と解せられる。)なお、被告は、原告主張のように、引用発明において、案内中心と推進機回転軸との距離が翼車の回転中一定に保たれていると解することは不可能であると主張するが、案内中心と推進機回転軸とがこのような関係にあることは、前顕甲第十号証により明らかな引用発明の構成自体から容易に看取しうるところであり、また、「ピッチを全速前進の位置から全速後進の位置まで変える」とは、ピッチ、すなわち、案内中心の位置を変えて、全速前進の位置から全速後進の位置に変えることを意味するものと解される。

(二) の点について

引用発明については、前顕甲第七号証中に、本願発明を理解できる程度に、その構成が示されている。

(三) の点について

「抗力比」という用語は、前掲訂正明細書(甲第七号証)中翼の迎角と流体の流れとの関係についての記述部分において、「充分な抗力比を保ち得る」という表現で使用されているのであるから、それが「揚抗比」の単純な誤記であることは、当業者の容易に理解しうるところというべきである。

(四) の点について

「翼の接線位置」とは、前顕甲第七号証(第六頁四〜十行および図面第一図参照)の記載によれば、翼円上の旋回角〇度の点及び一八〇度の点を意味するものと理解することができ、また、「益々速に」も、同号証の記載によれば、最大翼角を大きくすればするほど、翼の反転する点は翼円上の一八〇度における翼の接線位置に益々速やかに近づき、最大正翼角となる翼の翼円上の位置から、最大負翼角となる翼の翼円上の位置までの旋回角は、益々小さくなり、また、このことから翼が揺動するときの回転速度は、いよいよ大きくなることが理解できる。 <中略>(むすび)

三 叙上詳説したとおりであるから、本願発明は、その要旨が不明であるとした本件審決には判断を誤つた違法があるものというべく、これを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるということができる。よつて、これを認容する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

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