東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)174号 判決 1962年6月28日
原告 高橋通泰
被告 日本弁護士連合会
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、長崎弁護士会が昭和三二年一二月二八日原告に対してした長崎弁護士会より退会を命ずるとの懲戒決定および被告が昭和三六年一〇月一四日にした原告の異議申立を棄却するむねの審決をいずれも取り消す、原告を懲戒しない、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、
(一) 原告は長崎弁護士会所属の弁護士であるところ、同弁護士会は原告が昭和三二年四月三〇日長崎地方裁判所において詐欺、業務上横領、弁護士法違反、脅迫等の行為につき懲役一年六月、執行猶予二年の有罪判決の言渡を受けたことにより長崎弁護士会の信用を害し弁護士の品位を失うべき非行があつたものとして請求の趣旨記載の懲戒処分をしたので、原告は被告に対し適法な異議申立をした。
(二) 被告は審理の結果前項記載のうち詐欺行為の一部および業務上横領の行為を除きその他は同項記載のような行為があるものと認定して右異議の申立を棄却するむねの審決をした。
(三) しかしながら長崎弁護士会の決定および被告の審決は、いずれも事実誤認、法令、弁護士会会則違背により取り消さるべきであり、原告には何ら懲戒すべき理由はないから、請求の趣旨記載のような判決を求めるため本訴請求に及ぶ。
と陳述し、被告主張事実中原告に対する刑事裁判の経過が被告主張のとおりであることは認める、と述べ、乙号各証の成立を認めた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
原告主張事実中(一)、(二)は認めるが、(三)は否認する。
一、原告は同人に対する詐欺、弁護士法違反、脅迫被告事件につき昭和三二年四月三〇日長崎地方裁判所において懲役一年六月、執行猶予二年の判決を受け、福岡高等裁判所に控訴したが、同裁判所において昭和三四年三月二七日懲役一年、執行猶予二年の判決を受け、更に上告の結果最高裁判所において昭和三七年二月二一日上告棄却決定があり右決定に対する異議申立に対し同年四月四日右申立棄却決定の送達を受け、弁護士法第六条第一号に定める禁こ以上の刑に該る懲役一年執行猶予二年の刑が確定した。そこで被告は右確定にもとづいて弁護士法第六条第一号および同第一七条第一号により原告の弁護士登録を取り消した。
二、よつて被告の原告に対する懲戒処分はその対象を失つて効力を発生するに由ない結果となつたので、本訴請求を維持する利益を有しなくなつたものである。
と述べ、立証として乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証を提出した。
理由
原告は本訴において、長崎弁護士会が昭和三二年一二月二八日に原告に対してした長崎弁護士会より退会を命ずるとの懲戒決定および被告が昭和三六年一〇月一四日にした原告の異議申立の棄却審決の取消ならびに原告を懲戒しないとの判決を求めるのであるが、原告が同人に対する詐欺、弁護士法違反、脅迫被告事件について懲役一年執行猶予二年の刑に処する判決を受け、右判決にもとづく刑は上告棄却決定および右決定に対する異議申立棄却決定の送達により昭和三七年四月四日確定したことが当事者間に争いがないから、原告は禁こ以上の刑に処せられたものとして、弁護士法第六条により右確定と同時に弁護士の資格を喪失したものというべく、現在においては原告が本件判決を求める法律上の利益は失われたものといわなければならない。
よつて原告の請求を棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 関根小郷 福島逸雄 荒木秀一)