大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)36号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕第二 請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三十年九月十五日、「線状且つ常態に於て固体の重合体の製造法」(後に発明の名称を「ポリ(ブテン―1)の製造方法」と訂正)につき一九五四年九月十五日、同年十一月二十二日及び同年十一月二十四日、アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願をしたところ、昭和三十四年六月十九日、拒絶査定を受けたので、同年十一月二十四日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第二、七二七号事件として審理されたが、昭和三十五年十月三十一日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年十一月十二日原告に送達(出訴期間は昭和三十六年四月十二日まで延長)された。

二 本願発明の要旨

チタン、ジルコニウム、セリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン又はタングステンのハロゲン化物と有機成分としてnーブチル基のみを含む有機金属性化合物より成る還元剤とを混合することにより形成される配位触媒の存在下に於てブテン―1を重合させ、且つ上記還元剤はハロゲン化物中の多価金属の少くとも一部を三月以下の原子価とするに充分な量だけ使用されることを特徴とする0.91±0.02の密度を有するポリ(ブテン―1)の製造方法。

三 本件審決理由の要点

本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、これと、特許第二五一八四六号として登録された特許発明(一九五四年六月八日及び同年七月二十七日、イタリー国において、同年八月三日ドイツ国においてした特許出願に基づき昭和三十年六月八日特許出願)(以下「引用発明」という。)とを比較すると、引用発明のオレフインと称するのは、一般式RC=CH2(Rはアルキル、シクロアルキル又はアリルである。)であり、ブテン―1を包含することは明らかであり、その重合触媒は、引用発明の「トリウムとウランを含めて周期律第4?6族金属の化合物」は、本願発明の「チタン、ジルコニウム、セリウム、パナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン又はタングステンのハロゲン化物」と同一物であり、また、このものに混合すべき引用発明の周期律第1?3族の金属有機化合物は本願発明の有機金属性化合物より成る還元剤と同一物であることは、両者の明細書、ことにその発明の詳細なる説明の項の記載から明らかである。また、これらの二種の触媒原料の配合割合も、本願発明が「上記還元剤はハロゲン化物中の多価金属の少くとも一部を三以下の原子価とするに充分な量だけ使用される」と表現し、引用発明は、その発明の詳細なる説明の項において「重合触媒は、一般に最高原子価よりも低い原子価でこれらの金属を含み、少くとも部分的には還元と見なしうる反応によつて得られる。」と明記し、両者は、その表現上の差があるに過ぎず、実質的には、同一の内容を持つことは一般化学常識から容易に判断しうるところである。

以上のとおり両者には、表現上の差はあつても原料単量体並びにその単量体を重合させる配位触媒も同一であるから、実質上は同一発明というべく、したがつて、本願発明は、引用発明と同一発明であり、本願発明は、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第八条の規定により特許を受けることができないものである。

四 本件審決を取り消すべき事由

本願発明の要旨は、本件審決認定のとおりであるが、引用発明の要旨は、昭和四十四年十月一日確定の訂正審判により、さかのぼつて大きく変化(減縮)した結果、本願発明と同一発明とすることはできないこととなつたので、本件審決は、この点に関する判断を誤つたことに帰し、違法として、取り消されるべきものである。すなわち、引用発明の特許請求の範囲は、その登録当時、『少くとも3個の炭素原子を有する一般式

R?CH=CH2

(式中Rはアルキル、シクロアルキルまたはアリルである)のオレフインの、殊にブロピレン、n―ブテン―1、n―ベンテン―1、n―ヘキセン―1およびスチロールのようなα―オレフインの線状で主として非分岐の頭尾ポリマーで、一般的構造式

CH2―CHR―CH2―CHR―

のもの、これらオレフイン相互の混合物またはこれらオレフインとエチレンとの混合物のポリマーで、平均分子量一〇〇〇〇以上のものを製造する方法において、トリウムとウランを含めて周期律第4―6A族金属の化合物を周期律第2、3族の金属かそれら金属の合金又は周期律第1―3族の金属水素化物もしくは金属有機化合物と反応させて得た触媒の存在で、有機不活性溶剤中で前記オレフイン類を重合させることを特徴とする、オレフインの高分子線状ポリマーの製法』であつたが、昭和四十一年十二月二十七日、訂正審判が請求され(同年審判第九、二二九号事件)、昭和四十四年八月十八日の審決により、「プロピレンまたはプロピレンとエチレンとの混合物を、(A)チタンの塩化物、臭化物または沃化物と(B)一般式R'R''AI R'''(式中R'およびR''は低級アルキル基、R'''は低級アルキル基、水素、ハロゲンまたはアルコキシ基である)を有するアルミニウムの有機金属化合物とを反応させて得た触媒の存在で、有機不活性溶剤中で重合させることを特徴とする一〇、〇〇〇以上の平均分子量を有するプロピレンまたはプロピレンとエチレンとの混合物の線状で主として非分岐の頭尾ポリマーの製法。」と減縮され、その審決は、昭和四十四年十月一日確定し、同年十一月二十日、第二五一八四六号特許原簿に登録された。その結果、引用発明は、右の減縮された特許請求の範囲をもつて、特許出願され、出願公告され、特許されたものとみなされることとなつたが、これを本願発明と対比すると、引用発明がプロピレン又はプロピレンとエチレンとの混合物の重合を対象とする方法であるに対し、本願発明はブテン―1の重合に関するものである点で、両者の間に明確な相違のあることが明らかであり、この相違点は、原料物質及び目的生成物に関するものであるから、両者を実質的に区別しうる重要な相違点ということができる。したがつて、両者は、訂正審判の審決の結果、もはや、触媒その他の諸条件について異同を論ずるまでもなく、同一性のない発明となつたものである。

第三 被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、原告主張の請求原因事実は、すべて認める、と述べた。

〔理由〕(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 引用発明の要旨が原告主張の訂正審判の審決の確定に伴い、原告主張のとおり減縮されたことは、当事者間に争いがなく、この事実に徴すれば、本件審決は、引用発明の技術内容の認定を誤り、ひいて、本願発明との対比において、判断を誤つたものに帰し、違法として、取消を免れない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!