大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)75号 判決

本願および引用両商標について商標が類似することは当事者間に争がないから、結局、本願の指定商品が引用商標の指定商品墨汁と旧商標法第二条第一項第九号にいわゆる同一または類似の商品といえるかどうかが争点である。

(一) まず、原告は、審決が右両商標の指定商品相互の類否について具体的事実にもとづきそれぞれの商品にわたり判断を明らかにしなかつたのは、すでにこの点において審理不尽、理由不備の違法があるというべきであると主張する。なるほど、審決は、本願の指定商品のそれぞれについて引用商標の指定商品墨汁との類否をいちいち判断せず、単に両者を対比し「相抵触するものが包含されているものと認める」としているだけである。けれども、本願の指定商品が引用商標の指定商品墨汁と類似することは後記認定のとおり明らかであり、ことにそのうちインキが「墨汁」と類似の商品であることなどはまずみやすいところであるばかりでなく、原告も本願の指定商品の中少くともその一部に引用商標の指定商品墨汁と類似するものがありうることをすでに特許庁における本件審決手続において自認する態度に出ていたことが成立に争のない甲第三号証および弁論の全趣旨に徴して明らかであるところ、このような場合、被告が、これを黙示的にもせよとつてもつて、本願の指定商品の一部についてでも引用商標の指定商品と類似するものがある以上出願商標の登録をすべきではないとの理論的見解に立つて、前示認定のとおり審決することは少しも妨げないところであり、これをもつて審決の理由を知るに足りるから、右の理論的見解の当否を争うのはしばらくおき、審決に理由の記載を欠くものとしてこれを違法とするに帰する主張を認めるに由ないことは明らかである。

(二) つぎに、指定商品相互の類否について考える。

本願の指定商品「万年筆、鉛筆、クレオン、鉛筆削り、ペン先、ペン軸、シヤープペンシル、チヨーク、インキ、印刷用インキ、インキ消、消ゴム、ゴム印、筆洗、文箱、筆立、紙挾、状差、シース、紙押えピン、ホチキス、バインダー、文鎮」のそれぞれと引用商標の指定商品「墨汁」との類否を相互に対比して考えるのに、両者はいずれをとつてみても、きわめてひろく一般に、書写およびこれに密接に結合された用途に供される具として日常たえず使用され、かつ、同一の店舗で販売される常態をもつ商品であつて、これらの商品に本件のような類似の商標を付するにおいては、その出所につき需要者、取引者において誤認混同を生ずるおそれがあることは、取引の通念に照し、多言を要せずして明らかである。したがつて、両者は類似の商品というに妨げがない。

原告は、商標権の効力の及ぶ商品の範囲は、固有の指定商品に限るのが本則であり、これと類似する商品についてはごく例外的にその効力が及ぶに過ぎず、類似商品の範囲は狭く解すべく、本願の指定商品は「墨汁」と類似ではないと主張するけれども、登録商標の保護は、指定商品自体についてのみに限られるものではなく、指定商品のほかその類似商品にも及ぶものであることは、旧商標法第二条第一項第九号に徴しても、明らかである。そして、これは、指定商品によつて表現される営業の範囲との関連において、その商標が保護されるべきことを意味しており、類似商品の範囲がそこに画されうるわけであるが、一方、経済事情の推移にともない、その営業の構成、在り方も変わるから、ひいて、類似商品の範囲も、これに応じ、商標権者を保護し商標による不正競争を防止し需要者における商標による商品の誤認出所の混同を防ぐとの考慮を容れつつ、決定されるべきものであることも当然である。したがつて、原告の右主張は、採用できない。なお、審決において、本願の指定商品のうちに「墨汗」と類似でないものがあるとするような表現をとつたところがあるけれども、これは、被告も述べているように、(一)の項における認定の趣旨にかんがみ、事端をしげくしないように控え目に示された判断にとどまるものであることがうかがわれる。

(三) 右のとおりである以上、本願の指定商品の一部に引用商標の指定商品「墨汁」と類似でないものがあることを前提とする請求原因第三項(二)および(四)の原告の主張は、さらに判断を加えるまでもなく採用できないことが明らかである。

よつて、本願商標が引用商標と類似であつて指定商品についても相抵触するものとし旧商標法第二条第一項第九号に該当し登録すべきものでないとした本件審決は、結局相当に帰するから、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!