東京高等裁判所 昭和37年(う)1108号 判決 1962年11月09日
被告人 田中武 外四名
主文
被告人吉村雅之、同杉浦佐吉、同田中武、同高倉勇太郎の本件各控訴を棄却する。
原判決中被告人鈴木彦治に関する部分を破棄する。
被告人鈴木彦治を懲役二年に処する。
押収に係る実包(大)一一六発、実包箱入(大)一五発、同一五発、同一五発、同一五発、実包(小)四発、九四式拳銃一丁、弾倉(実包六発入)二個(東京高裁昭和三七年押第四〇七号の1乃至6、20、21)は被告人鈴木彦治から没収する。
当審に於ける訴訟費用中当審証人大塚一衛に支給した分は被告人吉村雅之の、当審証人牧野英司に支給した分は被告人杉浦佐吉の、当審証人安藤茂市に支給した分は被告人田中武の、当審証人丸徳禎に支給した分は被告人高倉勇太郎の、各負担とする。
理由
控訴趣意第一点について
所論は、原判決が原判示第一の四に於て被告人田中に対し、公務執行妨害の事実を認定しているが、本件電灯の破壊は被告人田中の行為によるものでなく、被告人田中を取押えようとした警察官の行為により惹起されたもので、被告人田中は被告人鈴木の急を救おうとし電灯を消すべく電灯のスイツチに手をかけようとした途端、これを阻止しようとした警察官が被告人田中に飛びついたため、被告人田中が重心を失い倒れんとした際、無意識のうちに電灯の笠に手がかかりコード諸共電灯の設備がこわされたのに過ぎないのであつて、被告人の行為と電灯の破壊との間には因果関係がないから、被告人田中に対し公務執行妨害の責任を問うことはできない。而も被告人田中が電灯のスイツチを切ろうとしたことは直接公務員に向けられた有形力の行使でないから公務執行妨害罪の暴行ではない。原判決はこの点に於て事実を誤認した違法があると云うに在る。
よつて案ずるに、原判決認定の原判示第一の四の公務執行妨害の事実はその挙示する対応証拠により優にこれを肯認することができるのであつて、これ等挙示の証拠を綜合すれば、原判示のように司法警察員等数名が本件捜索差押現場に於てその職務執行中、被告人吉村等が廊下から右差押現場に入れろと要求し、司法警察員と押問答している際、被告人田中が電灯を消し暗闇とし警察官の職務執行を妨害し被告人鈴木を逃亡せしめようとし、隣室から飛び出して右差押現場に侵入し電灯設備に手をかけこれを引張り電灯を破壊し暗闇とする暴行をしたことが明らかであり、たとえ、この暴行が警察官の身体に直接に加えられたものではなかつたとしても、それによつて当該警察官の職務の執行を妨害するに足る事態を惹起せしめた以上、被告人の右所為たるや、まさに、刑法第九五条第一項にいう暴行に該当するものというべきである。而して記録を精査検討し、当裁判所の事実取調の結果に徴してみても、原判決の右認定に誤があるとは思われないから、原判決が挙示の証拠により判示事実を認定したのは正当であつて、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はない。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点中被告人吉村同杉浦同田中同高倉に関する部分について
各所論は、原判決が被告人吉村、同杉浦、同田中等に対し各懲役一年六月、被告人高倉に対し懲役一年の実刑を科したのはその量刑重きに過ぎて不当であると云うに在り、当裁判所の事実取調の結果を参酌し、記録に現われた本件各犯行の罪質、態様、動機、各被告人の性格、年齢、経歴、家庭の事情、犯罪後の情況等量刑の資料となるべき諸般の情状を綜合勘案するに、被告人吉村、同杉浦、同田中、同高倉は浜松市内の博徒国領家一家の分家鍛治町一家(玉弥)の親分被告人鈴木の若い衆で正業につかず被告人鈴木と共に相当規模の賭場を開張し寺銭を徴収しこれを分配していたもので、本件賭場開帳図利罪もその一つの現われで、その情状必ずしも軽いとは云えない許りでなく、被告人吉村はその先輩格で交通事犯による科料が一回あり、被告人杉浦は本件に於て右賭場開帳図利罪の外匕首一本を不法に所持しており、既に恐喝、窃盗等による検挙歴三回、交通事犯による罰金二回あり、被告人田中は本件に於て右賭場開帳図利罪の外公務執行妨害罪を敢行しており、既に恐喝、窃盗等により逮捕され少年院に収容されたことがあり、被告人高倉は恐喝罪により少年院に収容された前歴、交通事犯による罰金一回を有する点を考慮するときは、各所論の被告人吉村、同杉浦、同田中、同高倉等に関する有利な諸事情を斟酌してみても、原判決の量刑は已むを得ないものと考えられ、所論のように重きに失して不当であるとは思われない。論旨は理由がない。
次に職権を以て調査するに、原判決は罪となるべき事実の第一の四として被告人鈴木が拳銃及び実包並びに仕込杖を不法に所持した旨認定しているが、当審証人宮田一男、同吉田文夫、の各証言、当審に於ける被告人鈴木、同吉村の各被告人質問の結果を綜合すれば、右あいくちを仕込んだ仕込杖は吉田文夫に於て池上警察署を経由し登録申請をなし、これが登録証の交付を受けていたものなるところ、被告人吉村がこれを譲受けようとしこれが値ぶみの鑑定をなさんとして登録証と共にこれを持去り、原判示鈴木和夫方に置いたものであつて、被告人鈴木はこれを知らなかつたことが認められるから、被告人鈴木が右仕込杖を不法に所持したとの点は結局その証明がないものと云うべく、原判決はこの点に於て事実を誤認したもので、その誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、被告人鈴木に関する量刑不当の主張につき判断するまでもなく、原判決中被告人鈴木に関する部分は破棄を免れない。
よつて被告人吉村、同杉浦、同田中、同高倉の本件各控訴は理由がないから刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却し、当審に於ける訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し、主文掲記のとおり被告人吉村、同杉浦、同田中、同高倉をして各負担せしむることとする。被告人鈴木の本件控訴は結局理由があるから同法第三九七条第二項第三八二条により原判決中被告人鈴木に関する部分を破棄し、同法第四〇〇条但書により次のとおり自判する。
被告人鈴木の罪となるべき事実及び証拠の標目
原判示第一の一は原判決摘示のとおり。原判示第一の二のうち「並びに刃渡り約一四・八糎のあいくちを仕込んだ仕込杖一丁(証第一九号)」とある部分を削除する外原判決摘示のとおりであつて、右事実に関する証拠の標目は原判決挙示のとおりである。
法律に照すと被告人鈴木の原判示第一の一の賭場開帳図利の点は刑法第一八六条第二項第六〇条に、同被告人に対する前段摘示の銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項第二条第三一条第一号に、火薬類取締法違反の点は火薬類取締法第二一条第二条第三号ロ第五九条第二号に各該当するところ、右銃砲刀剣類等所持取締法違反と火薬類取締法違反とは一個の行為で二個の罪名に触れるので刑法第五四条第一項前段第一〇条により重い前者の刑に従い所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条により重い賭場開帳図利罪の刑に併合罪の加重をなした刑期範囲内で被告人鈴木を懲役二年に処し押収に係る実包大一一六発、実包箱入大一五発、同一五発、同一五発、同一五発、実包小四発、九四式拳銃一丁、弾倉実包六発入二個(東京高裁昭和三七年押第四〇七号の1乃至6、20、21)は本件銃砲刀剣類等所持取締法違反罪、火薬類取締法違反罪の組成物件で被告人鈴木の所有に係るものであるから刑法第一九条第一項第一号第二項により被告人鈴木から没収することとする。
なお被告人鈴木に関する公訴事実中仕込杖一丁を不法に所持した点はその証明十分でないが、右は本件銃砲刀剣類等所持取締法違反事実の一部として起訴されたこと明白であるから、特に主文に於て無罪の言い渡しをしない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 尾後貫壮太郎 鈴木良一 飯守重任)