東京高等裁判所 昭和37年(う)1729号 判決 1962年11月22日
被告人 申潤誅
主文
原判決を破棄する。
被告人を、
原判示第一の酒類製造の罪につき罰金二〇、〇〇〇円に、
原判示第二の米麹製造の罪につき罰金一〇、〇〇〇円に、
各処する。
被告人が右各罰金を完納することができないとき、金三〇〇円を一日にそれぞれ換算した期間、被告人を労役場に留置する。
日本銀行が保管している現金一一、五三三円一二銭は没収する。
原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
原判決が、被告人に対する原判示事実に対する法令の適用として、酒類製造の点は昭和二八年法律第六号酒税法第五四条第一項、第七条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項に、米麹製造の点は同法第五六条第一項第一号、第八条、罰金等臨時措置法第二条第一項に各該当するところ、犯罪后の法律によつて刑の変更があつた場合であるから、刑法第六条、第一〇条、刑法施行法第三条第三項に従い、軽い昭和二一年法律第一四、昭和二二年法律第一四二号、昭和二三年法律第一〇七号に依り改正された昭和一五年法律第三五号酒税法の罰則に従うこととし酒類製造の点については同法第六〇条第一項を、米麹製造の点については同法第六四条第一項第一号を適用すべきところ、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第一項、第二項に従い、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人を罰金三〇、〇〇〇円に処することにしたとしていることは所論の指摘するとおりである。ところが、昭和二八年法律第六号酒税法は附則第一四項において、「この法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。」と規定しているから、本件については、刑法第六条により新旧比照をすることなく、直ちに行為時法を適用すべきものであり、刑法第六条による新旧比照をした原判決の法令の適用には、法令の適用を誤まつた違法があるというべきであるが、原判決は結局において、被告人の原判示所為に対して行為時法を適用して処断しているから、この点に関する原判決の法令の適用の誤は判決に影響を及ぼすものとはいえない。しかし行為時である昭和二四年法律第四三号による改正前の昭和一五年法律第三五号酒税法第六六条によれば、同法第六〇条第一項若しくは第二項、第六一条第一項又は第六二条第一項の罪を犯したものには刑法第四八条第二項の規定を適用しない旨を規定しているが、右規定は右に掲げた各罪相互の間ばかりではなく、これと併合罪の関係に立つ他の罪との関係についても、刑法第四八条第二項の適用を排除したものと解するのが相当であるから、原判決が原判示酒類製造の罪と米麹製造の罪を刑法第四五条前段の併合罪であると認定しながら、これに同法第四八条第二項の規定を適用した原判決の法令の適用には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤があつたものというべきであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。(なお原判決は被告人に対して罰金刑を科しただけで、これに他の刑を併科していないから、原判示事実に対して刑法第四八条第一項を適用した原判決の法令の適用には、法令の適用を誤まつた違法があるというべきであるが、この点に関する原判決の法令の適用の誤は判決に影響を及ぼすものとはいえない。)
よつて、本件控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三八〇条、第三九七条第一項により、原判決を破棄した上、同法第四〇〇条但書の規定に従い、更に、自ら次のように判決をする。
原判決が認定した事実に法律を適用すると、本件については昭和二八年法律第六号酒税法附則第一四項に従い、いずれも行為時法を適用すべきところ、原判示第一の酒類製造の点は昭和二四年法律第四三号による改正前の昭和一五年法律第三五号第六〇条第一項、第一四条、罰金等臨時措置法第二条第一項に、原判示第二の米麹製造の点は昭和二四年法律第四三号による改正前の昭和一五年法律第三五号酒税法第六四条第一項第一号、第一六条、罰金等臨時措置法第二条第一項に各該当するところ、前者の罪については昭和二四年法律第四三号による改正前の昭和一五年法律第三五号酒税法第六六条により刑法第四八条第二項の適用が排除されているから、各罪を各別に処断することとし、それぞれ所定の罰金額の範囲内において、被告人を原判示第一の酒類製造の罪について罰金二〇、〇〇〇円に、原判示第二の米麹製造の罪について罰金一〇、〇〇〇円に各処し、右各罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により金三〇〇円を一日にそれぞれ換算した期間被告人を労役場に留置し、なお日本銀行が保管している現金一一、五三三円一二銭は原判示各製造にかかる酒類及び米麹並びにその機械、器具、容器等の換価代金であるから、昭和二四年法律第四三号による改正前の昭和一五年法律第三五号酒税法第六〇条第三項及び同法第六四条第二項に従い、これを被告人から没収し、又原審の訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い、全部被告人に負担させることとして、主文のように判決する。
(裁判官 加納駿平 河本文夫 清水春三)