大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(う)1798号 判決 1963年7月10日

被告人 内村留五郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審における未決勾留中六〇日を右本刑に算入する。

押収にかかる物件中東京地裁昭和三五年証第一四八七号の一ないし一五を没収する。

押収にかかる物件中東京地裁昭和三二年証第一四四五号の(125)と(126)を被害者に還付する。

原審における訴訟費用中別紙記載の分は、被告人の負担とする。

理由

弁護人山菅正誠の控訴趣意第一点について。

所論は、原判決が、その判示第二の(一)の事実につき適用している証券取引法第五八条第一号にいう「不正の手段」とは、その意義内容が漠然としているので、憲法第三一条に違反する無効の規定であり、かつ、右事実には、理由不備、または、擬律錯誤の違法があるという主張である。

しかし、証券取引法第五八条第一号にいう「不正の手段」とは、取引所取引たると、店頭取引たるとを問わず、有価証券の売買その他の取引について、詐欺的行為、すなわち、人を錯誤におとし入れることによつて、自ら、または他人の利益を計ろうとすることであると解するを相当とする。してみれば、右条号にいう「不正の手段」という概念は、必らずしも所論のように漠然としているということはできないから、所論違憲の主張はその前提を欠くことに帰する。そして、原判決摘示の所論自己売買とは、その判文にてらし、有価証券市場で、原判示のごとく無価値に等しい原判示那須硫黄礦業株式会社の株式にあたかも市場性があるように見せかけるため、単に右会社の株式二〇〇〇株について権利移転を目的としない偽装の取引をなさしめたものと解するを相当とする。また、証券取引法第一二五条第一項第一号ないし第四号違反の各罪は、他人をして、証券取引所に上場する有価証券の売買取引が繁盛に行われていると誤解させるなど、当該有価証券の売買取引の状況に関し、他人に誤解を生じさせる目的をもつて、同条項各号の所為をなすことにより成立するものであるところ、原判決は、被告人に右の目的のあつたことを認定していないことが判文上明らかである。したがつて原判決が、被告人の原判示第二の(一)の所為を、証券取引法第五八条第一号、第一九七条第二号に問擬したのは正当であつて、同判決には、所論のような違法は存しないから、所論は、すべて採用できない。

(その余の判決理由は省略する)

(裁判官 小林健治 遠藤吉彦 吉川由己夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例