東京高等裁判所 昭和37年(う)2106号 判決
被告人 服部朝男
〔抄 録〕
(一) 弁護人の控訴趣意第二点(一)について。
通常アパート内の廊下は、その構造上その居住者のみの共用にあてるため設けられているものであるから、各居住者の住居の一部と解すべきところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人は窃盗の目的をもつて判示新楽荘アパートの一階廓下から二階藤原方居室前廊下まで足を踏み入れたことが明らかである以上原判決がこれに住居侵入罪の法条を適用したのは正当であつて所論の如き違法はなく、論旨は理由がない。
(二) 被告人本人の控訴趣意中原判決判示窃盗の事実に関する事実誤認の主張及び弁護人の控訴趣意第二点(二)について。しかし、被告人が窃盗の目的をもつて判示アパート止宿人の居室内に侵入するため、同アパート玄関先にあつた判示の鍵を手に入れたものであることは、原判決挙示の証拠により明認し得られるから、所論のように扉の鍵を開けるという鍵本来の経済的用法に従つて使用する意思がなかつたものとは認められない。また。アパートの居住者が留守中その居室の扉に施錠するのは、いうまでもなく他人が無断で自己の居室内に立ち入りみだりに住居の安全を侵されることを防止するためであるから、鍵の権利者は他人に対し鍵の無断使用を許さないのが通例である。従つて、いやしくも窃盗の目的をもつてアパート内に侵入し止宿人の居室の扉を開けるため、無断でその鍵を手に入れた以上鍵の権利者を排除して恰も権利者の如くその鍵を利用する意思を発現したものというべく、たとえその鍵の使用が一時的であり、また使用後直ちに返還する意思があつたとしても所論領得の意思がないとはいえない。従つて被告人が判示の鍵を使用後返還する意思を有していたか否かは、本件窃盗罪の成否を左右するものではなく、論旨は理由がない。
(坂間 栗田 片岡)