大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(う)2128号 判決

被告人 金徳浩

〔抄 録〕

所論は、原判示被害物件中ゴルフ道具(ゴルフクラブ、靴、帽子、玉)は、被告人が自動車を窃取した五日位後に偶々その自動車の後部トランクを開いたとき初めて発見したのであるから、該自動車を窃取した際にはその存在の現認は勿論、予想もしなかつた。従つて右ゴルフ道具については、窃盗罪は成立しない。仮りに被告人に領得行為ありとするならば、その発見のときにあるというべく、そのときはこれに対する所有者の占有は、既に自動車の窃盗と同時に失われていたのであるから、被告人のゴルフ道具に対する領得行為は、占有離脱物の横領罪に該当することはあつても、窃盗罪を構成することはないと主張するが、窃盗罪は他人の財物に対する支配を獲得せんとする意思を以て他人の財物に対するその者の支配、経済的利用性を獲得することによつて成立するのであるから、被告人に他人の財物を窃取するの意思及びその窃取行為が認められる以上たとえその窃取した物件の中に犯人の窃取を期待していなかつた物件が存在していたとしても、又その存在を逐一詳細にこれを認識していなかつたとしても、その窃取した物件全部につき窃盗罪が成立するものと認めるのを相当とする。所論は、自動車のトランク中にゴルフ道具が所蔵されているというが如きことは偶然のことであつて、通常予測し得る範囲を超えたものであるというが、自動車のいわゆるトランクは、物品を蔵置する場所であつて、通常種々の物品が所蔵されてをることは当然予想されるところであるから、その中に所蔵された物品の存在に気付かなかつたとしても、それは単に被告人が気付かなかつただけのことで、それが偶々ゴルフ道具であつたとしても、所論の如くその所蔵が予測し得る範囲を超えたものであつて、そのものに対し窃取の意思がなかつた等と主張し得べき筋合ではない。従つて又該物件が既に所有者の占有を離れているものであるから、被告人の領得行為を以て占有離脱物の横領罪に該当するものと主張し得るものでもない。

(三宅 東 井波)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!