大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(う)2342号 判決

被告人 岡田貞一 外一名

〔抄 録〕

一、弁護人の所論第一は、被告人等が長田庄一に関し公然摘示した事実は、現に相互銀行の取締役の地位にある同人が同銀行新宿支店長兼立川支店長であつた昭和二七年乃至同二九年の間に犯した詐欺横領及び証券取引法違反の事実で、公共の利害に関するものであり、しかも被告人等が右事実を公然摘示した目的は専ら公益を図るためであり、かつ右摘示にかかる事実は真実であることが証明されているのであるから、被告人等の本件所為は刑法第二三〇条の二第一項の規定により無罪とせらるべきであるのに、原判決は同条項に該当しないとして有罪としたのであつて、これは法令の適用を誤つたものである、と主張する。

よつて記録を調査して按ずるに、被告人等が共謀して本件所為をなすに至つた経緯は大要原判示のとおりであるが、この経緯に徴すれば、仮りに被告人等の摘示にかかる犯罪行為が長田庄一にあつたとしても、その詐欺横領は昭和二七年から同二九年にかけてのものであり、その証券取引法違反も昭和二七年から同二八年にかけてのもので、被告人等が本件所為をなす遥か前のことに属し、その間に公訴時効が完成し、証券取引法違反の点も夙に訂正されているのであつて、被告人等の本件所為当時に至つては、たとえ右長田が相互銀行の取締役の地位に現にあつたにしても、前記摘示事実の公表が公共の利益のためなお必要であつたものとはたやすく認め難く、また被告人等の本件所為がその目的において専ら公益を図るにあつたものとも認め得ないことは後述のとおりである。されば被告人等の本件所為は刑法第二三〇条の二第一項所定の要件を欠き同条項の適用を受け得べきものではないのであつて、原判決が同条項を適用しなかつたことは当然であり、この点を捉えて法令適用の誤りであると主張する論旨は失当で排斥を免れない。

二、弁護人の所論第二は、原判決が「本件ビラ等の内容はいずれもその記載自体によつて公益上必要な限度内のものとは認められない」と認定したのは判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認である、と主張する。

よつて記録及び証拠物を調査して按ずるに、なるほど原判決は弁護人の主張に対する判断の項において所論指摘のとおり説示しているが、被告人等が配布した本件ビラ等の内容は長田庄一の犯罪事実の抽象的な摘示の外に争いの当事者としての私憤の吐露と見られる罵倒侮蔑の文言を少なからず含み必ずしも公益に必要な限度に止まつたものとは言い難いこと原判決の説示するとおりであるばかりでなく、原判決は、被告人等の摘示した長田の犯罪事実は長年月を経た前の事実で既に公訴時効も完成し、被告人等の本件所為当時においてはこれを公然摘示する公益上の必要も妥当性も認め難い、として右摘示事実が公共の利益に関するものとは既に言い得ないことを明らかにし、これに附加して前記説示をなし、そのいずれの点からも被告人等の本件所為は刑法第二三〇条の二第一項に該らない旨説いているのであつて、右附加した説示の当否は本件犯罪の成否に影響を及ぼすものでないことは言うまでもなく、また犯情としても判決に多く影響するものとは認め難い。この点の論旨も採用に価しない。

三、弁護人の所論第三は、原審は、被告人等が公然摘示した長田庄一の犯罪事実であることを立証するため弁護人が取調べを請求した証拠をすべて却下し、右摘示事実であるか否かを判断することなく被告人等を有罪となしたが、これは判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反である、と主張する。

よつてこの点につき記録を調査して按ずるに、なるほど原審は、被告人等の摘示した事実の真否の判断に及ぶ必要がないとして、この点に関する弁護人の証拠の取調べ請求を却下したことが明らかである。しかしながら弁護人の所論第一に関する判断において説明した如く、本件摘示事実はその摘示当時においては、長年月を経た前の事実で、既に公訴時効も完成し、その公表が公共の利益に関するものとはもはや認め難い事態に達して居り、従つて被告人等の本件所為はこの点において既に違法性阻却の要件を欠き、摘示事実の真否に関する判断の必要が失われていたのであるから、原審が摘示事実の真否を明らかにするためになした弁護人の証拠調べの請求を却下したことは当然な措置であつて、その訴訟手続は何等法令に違反するものではなく、この点の論旨も理由がない

(斉藤 関谷 渡辺一)

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