大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(う)2343号 判決

被告人 東野英一

〔抄 録〕

所論は、丸八商事株式会社及びその出張所は商品取引の委託を受けるについて、その顧客から証拠金或は証拠金代用の有価証券を預つてはいるが、その代用証書は商品取引の担保の役割をなすものであるから、その取引において顧客(委託者)に欠損を生じた場合には会社側(受託者)においてこれを自由に処分することができる。(事実本件においては顧客の帳尻は殆んど大部分赤字(欠損)であつた。)又会社側で再担保の必要があるときは任意にその再担保その他自由に処分することができる。その株券を返還する場合においても同種同量のものを返還することができる旨の契約が顧客との間に成立している。又本件においては会社は顧客から代用証券を預る際「預証」にあらざる「領収証」と題する書を顧客に渡してある。もし「預証」を渡したとすれば代用証券の所有権は顧客に留保されることになるが、「領収証」は所有権が引渡を受けた方即ち丸八商事株式会社に移転したことを意味する。いずれにしても本件においては、原判決が被告人において横領したと認定した証拠金代用の株券は元々会社の所有に移つていたものであるから、たとえ被告人がこれを入質処分したとしても、業務上横領罪は構成しないと主張する。

按ずるに、商品市場における売買取引の委託については、商品仲買人即ち受託者は顧客即ち委託者から委託手数料及び取引の担保として委託証拠金又は証拠金代用の有価証券を徴しなければならないこと、取引において欠損を生じた場合には受託者はこれら証拠金又は代用証書を以てその欠損の補顛、精算をなし得ることは所論のとおりである。しかしながら元来右の証拠金又はその代用証券は取引の担保即ち商品取引において商品仲買人が顧客の委託に基いて売買取引を行い、その取引の代金債権ないし取引により生ずる損害金債権を担保するため、委託者からこれを徴し保管するものであるから、小泉国太郎が検察官に対して述べ(昭和三十四年五月六日付検察官に対する供述調書の記載)、当審証人山根東明も証言するとおり、証拠金の預託は一種の消費寄託とみて、商品仲買人において他の金員と区別せず自由にこれを使用することができるが、代用証券の預託は消費寄託とは認めず、受託者において預託されたもの自体を保管しなければならない。しかも商品取引において委託者に欠損を生じた場合においても追証を請求し又は損金の納入を要求し、これに応じないときに始めて委託者に通知した上該代用証券を処分して決済に充当し得るのであつて、況んやその代用証券を取引委託の趣旨に反して担保に供し、貸付けその他の処分をするときは必ず預託者の書面による同意を得なければならないのである。このことは商品取引所法第九十二条の規定からも当然理解できるところであつて、同法条にいう「物」には証拠金代用の有価証書を包含するものと解するから、預託と同時に代用証券の所有権が取引の受託者に移転し、取引において委託者に欠損が生じたときその他受託者に必要あるときは直ちに自由に処分し得るとの所論は到底採用し得ない。

(三宅 寺内 谷口)

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