大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(う)2797号 判決

被告人 馬詰光雄

〔抄 録〕

一、控訴趣意第一点について。

所論は、酩酊運転はその酩酊運転中に発生した事故と必ずしも常に因果関係を有するものでないのに、原判決は漫然被告人の酩酊運転に本件事故の原因を帰しているのであつて、これは理由不備である、と主張する。

よつて按ずるに、酩酊運転はその酩酊運転中に発生した事故と必ずしも常に因果関係を有するものでなく、酩酊運転に事故の原因を皈するためには、事故を生じた具体的な不法運転措置及びそれが酩酊に起因することを明確にしなければならないことは所論のとおりである。しかしながら、原判決は、被告人が酩酊のため正常な運転ができない虞れがあつたに拘らず運転を継続した過失により、原動機附自転車を運転し対進し来る被害者を約一一米前方に認め把手を左に切つて同人との接触を避けようとしたが、酩酊のため充分な把手操作ができず、同人に自車の前面部右方を衝突して顛倒させた旨を判示して、具体的違法運転措置及びそれが酩酊によるものであることを明確にしていることは同判文に照らし明らかである。そして酩酊運転の場合には酒精の影響により運転上必要な注意能力が減退し運転技能が鈍麻することのあるのは経験則上明らかであつて、酩酊のため充分な把手操作のできない場合もあり得るのであるから、原判決が本件事故の原因を前述の如く認定判示したことは必ずしも不合理でなく、これを捉えて直ちに理由不備であるとはなし得ない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意第二点について。

所論は、若し酩酊運転が本件業務上過失の内容であるとすれば、酩酊運転の罪(道路交通法第六五条第一一八条)と業務上過失傷害の罪(刑法第二一一条前段)とは想像的競合の関係にあり、従つてこれを処断上の一罪とし重い業務上過失傷害の罪の刑を以つて処断すべきであるのに、原判決はこれを処断上も別罪とし、救護義務等違反の罪(道路交通法第七二条第一項前段第一一七条)と共に併合罪として処断しているのであつて、これは判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りである、と主張する。

よつて記録により按ずるに、原判決は酩酊運転を本件業務上過失の内容として認定しながら、酩酊運転の罪と業務上過失傷害の罪とを処断上の別罪とし、これらを救護義務等違反の罪と共に併合罪として処断していることは所論のとおりであり、また酩酊運転を業務上過失の内容として認定した以上は、右酩酊運転と業務上過失傷害とは想像的競合の関係に立つと言うべきで、従つて右両罪はこれを処断上の一罪とし、刑法第五四条第一項前段第一〇条により重い業務上過失傷害の罪の刑を以つて処断すべきであることも所論のとおりである。されば原判決が右両罪を処断上でも別罪とし、これらを救護義務等違反の罪と共に併合罪として処断したのは、法令の適用を誤つたものと言わざるを得ないし、そしてこの誤りが判決に影響を及ぼすことも明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

(兼平 斉藤 関谷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!