大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(う)2837号 判決

被告人 杉田敏男 外一名

〔抄 録〕

所論の要旨は、

一、本件公訴事実は、本位的訴因として、

被告人両名は、共謀の上、アベツクをおどして金員を強取しようと企て、

(一) 昭和三七年六月二八日午後九時一五分頃東京都足立区千住元町七二番地先荒川区営運動場において、布施忠義(二四才)および吉野マサエ(二一才)の両名に対し「金を出せ」と申し向け、同人らが「ない」と答えるや、手拳で右布施の顔面を殴打し、右吉野の頭髪をつかんでその場に坐らせ或いは蹴飛ばす等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、右布施から現金九〇〇円在中の財布一個、右吉野から現金四五〇円在中の財布一個を強取し、

(二) 同月二九日午後九時三〇分頃同都江東区深川住吉町二丁目一二番地猿江公園において、松井晃(一九才)および秋庭寿子(一八才)の両名に対し、「金を持つているか」と申し向け、同人らが「ない」と答えるや、手拳で右松井の顔面を殴打し、右秋庭の右腕をねじあげる等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、右松井から現金五〇〇円位、右秋庭から女物腕時計一個(時価二、〇〇〇円相当)強取し、

(三) 同月三〇日午後一〇時一〇分頃同都足立区千住元町七二番地先荒川放水路川岸において、腰をおろして話をしていた内田仁(二〇才)および茂木利子(二〇才)の両名に対し「金を持つてないか」と申し向け、右内田が「持つていない」旨答えるや、矢庭に右両名の顔面を手拳で殴打する等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、右内田所有のカメラ一台(時価二四、〇〇〇円相当)を強取した

とのいずれも強盗罪に該当する各事実が掲げられていたのに対し、

二、原判決は、右各犯行の日時、場所、被害者、被害金品等については、本位的訴因と同一の認定をしながら、これらの事実は強盗と認定し得ないとして排し、検察官が、裁判官の要請によつて追加した予備的訴因に従い、前記(一)および(二)の各強盗の本位的訴因については、これらを、いずれも恐喝と認定し、また前記(三)の強盗の本位的訴因については、これを分離して、恐喝未遂と窃盗を認定したうえ前記各本位的訴因を、「各事実とも若い男女がその場所に赴いたもので、諸般の情況上必ずしも反抗を抑圧するに足りる程度にいたつたものとは認められない」との理由で、排斥している。しかし、本件記録および原裁判所において取り調べた証拠によれば、前記強盗の各本位的訴因を優に認めることができるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるという主張に帰着する。

三、そこで、審按するに、刑法第二三六条にいう暴行、脅迫は、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることを要するが、その反抗を抑圧するに足る程度かどうかの判断にあたつては、単に具体的な被害者の主観のみを標準とすべきではなく、被害者の年令、性別、性格、犯行の場所、時刻、犯人の服装、態度、その他の具体的事情を考慮しながらこれを一般的に判断して決すべきものであり(昭和二三年(れ)第九四八号同二四年二月八日最高裁判所第二小法廷判決、刑集三巻二号七五頁参照)、強盗罪が成立するには、社会通念上相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行または脅迫を加え、それによつて相手方から財物を強取した事実があれば足り、その暴行脅迫によつて、相手方が精神および身体の自由を完全に制圧されることは必要でなく(昭和二三年(れ)第七九五号同年一一月一八日同裁判所第一小法廷判決、刑集二巻一二号一六一四頁参照)また、強盗犯人が被害者を脅迫し、その反抗を抑圧中に財物を奪取すれば、その奪取行為が、たまたま被害者の気づかない間になされたものであつても、強盗罪が成立する(昭和二三年(れ)第一一一四号同年一二月二四日同裁判所第三小法廷判決、刑集二巻一四号一八八三頁参照)。

そして、原判決が判示第一および第二の各事実につき挙示している証拠を検討し、これに当審における事実取調の結果を綜合すれば所論被告人両名の前記原判示第一の(一)ないし(三)、第二の各犯行のなされた時刻は、昭和三七年六月二八、二九、三〇日の午後九時一五分頃から午後一〇時一〇分頃までのことであり、右犯行の行われた場所は、原判示の荒川区営運動場内深川猿江公園内および荒川放水路川岸であつて、いずれも右各現場は暗く、人影も少なかつたこと、

1、原判示第一の(一)の事実については、被告人両名は、被害者布施忠義および吉野マサエが立話中を、左右からはさみつけるようにつめよつたうえ「あんちやん、金を貸してくんないか」と要求し、被告人茂木が右忠義の顔面を手拳で殴打して、その場に坐らせたのち、立ち上りかかつたところをみずおちを突き、同人をして苦痛の余りその場に唸りながら坐り込ませ、一方被告人杉田は、右マサエの頭髪をつかんで、その場に坐らせ、左腕をねじあげたうえ「静かにしろ」といつて、足を蹴り、さらに、その間、被告人両名は、こもごも「静かにしろ、兄貴達が来ている。俺達は山谷に住んでいる。刺すぞ」などと脅迫をしていること、

2、原判示第一の(二)の事実については、被告人両名は、被害者松井晃および秋庭寿子が原判示石碑の台石に並んで腰掛けていたところを、取りかこむようにして襲い、被告人茂木が、まず「おい、この野郎、俺は浅草の山谷の者だ金を出せ。」といつて、断られるや、右晃の顔面を手拳で殴打し次に、被告人杉田が、右晃の顔面を手拳で数回殴り、同人をその場に押し倒したうえ、さらに、その大腿部を足蹴りにして、同人のポケツトに手を入れて財布を奪い(もつとも、財布と金一〇〇円は、右晃の要求により同人に返している。)その間、被告人茂木は右寿子を襲いその右腕を逆にねじあげて、同女の所有にかかる女物腕時計を奪つていること

3、原判示第一の(三)および同第二の各事実については、被告人両名は、被害者内田仁および茂木利子が、原判示の地面に並んで腰をおろし、右仁所有のカメラを、その間の地上において話しているところを左右から取りかこむようにして襲い、まず被告人茂木が右仁に対し、「おいこの野郎、金を持つているか」といつて拒絶されるや、同人の顔面を手拳で殴打し、次に、被告人杉田は、同人の顔面、頭部を数回殴打したのち、同人をその場に押し倒し、起き上ろうとするところを、肩を押えて殴り続け、さらに、同人の首を両手で締めていること、その間被告人茂木は、右利子を襲つて、その顔面を二、三回殴打し、次いで被告人両名は、再び右仁の顔面を手拳で殴打したところ、同人が苦しさのあまり「助けてくれ」と大声をあげたので、被告人杉田が犯行現場から逃走するに際し、とつさに前記仁所有のカメラを奪取したものであること

の事実を認めることができる。してみると、右被害者ら六名は前記のごとく殆んど助を求める手段もないような各場所において、屈強な被告人両名より脅迫をされたり、暴行を受けたりしたので、何をされるかとの心配で、逃げるには逃げられず、抵抗をしない方がよいと思つていたことが明らかであつて、前記各判例の趣旨に徴し、右被害者六名は、被告人両名の前記脅迫暴行により精神および身体の自由を完全に制圧されないにしても、すくなくとも、精神および身体の自由を著しく制圧されその反抗を抑圧させたものと解するのが相当である。されば、被告人両名がした前記の脅迫、暴行は、いまだ相手方の反抗を抑圧するに足りる程度にはいたらないとして、被告人両名に対する前記三件の各強盗の本位的訴因を恐喝、同未遂および窃盗の各事実に認定をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるものというべく、被告人両名に対する原判決は、いずれもこの点について破棄を免れないから、論旨は理由がある。

(小林健 遠藤 吉川)

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