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東京高等裁判所 昭和37年(う)488号 判決 1965年3月25日

被告人 合資会社両毛機械製作所

右代表者 栗原茂喜 外一名

主文

原判決中被告人栗原茂喜に関する部分全部及び被告人合資会社両毛機械製作所の原判示第一ないし第四、第七及び第十四の各罪に関する部分を破棄する。

被告人栗原茂喜を懲役壱年に処する。

但し、本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

被告人合資会社両毛機械製作所を判示(一)の罪につき罰金四万円に、判示(二)の罪につき罰金六万円に、判示(三)の罪につき罰金参万円に、判示(四)の罪につき罰金六万円に、判示(五)の罪につき罰金拾四万円に、判示(六)の罪につき罰金拾六万円に処する。

被告人合資会社両毛機械製作所の原判示第五、第六、第八ないし第十三、第十五及び第十六の各罪に関する控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人兼被告人合資会社両毛機械製作所代表者栗原茂喜本人、右被告人栗原の弁護人三森武雄及び右被告人会社の弁護人平井二郎提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

平井弁護人の控訴趣意第三点について。

間接国税反則事件においては、当該国税局長または税務署長の告発が公訴提起の有効条件である。ところで、本件起訴状に公訴事実として記載されている各年月の物品税逋脱行為(原審第二回公判で一部訂正)は、本件告発書に記載されている対応する各年月の物品税逋脱行為と数額を異にする。公訴事実の細目的内訳を掲げている「起訴状別表の内訳」と題する書面と右告発書添付の「物品税ほ脱額表の差引税込移出価額後の内訳」と題する書面との間には、物品の移出先の記載にも若干の異同がある。しかし、一個の犯罪事実の一部についての告発は、その全部について効力を生ずるのであり、物品税逋脱行為は各月ごとに一個の逋脱罪を構成するものと解するのを相当とするから、本件公訴事実と右告発書記載の事実との間に叙上のごとき相違があつても、前者が告発の対象となつた各年月の逋脱罪以外にわたるものでない以上、本件公訴を不適法とすべき理由はない(昭和二十九年三月二日第三小法廷判決、刑集八巻三号二百十七頁、昭和三十年十一月一日第三小法廷判決、刑集九巻十二号二千三百五十三頁参照)。論旨は理由がない。

平井弁護人の控訴趣意第一点及び第二点について。

原判決の判示する罪となるべき事実並びにその引用証拠によると、原判決は「起訴状別表の内訳」と題する書面(以下内訳表と称する)記載の事実を認定したうえ、これを月別に集計したものを第一ないし第十六の各事実として判示したものと認められる。

ところで、

(一)、内訳表の昭和二十九年六月分(原判示第一の事実)中に小暮姫吉に対しパチンコ機十五台を価格六万七千五百円(単価四千五百円)で移出し、これを申告しなかつた旨の記載があるが、大蔵事務官の籾山信子に対する昭和三十一年六月七日付質問てん末書(物品税ほ脱額調査表添付)及び大蔵事務官の小暮姫吉に対する質問てん末書によると、被告人会社が小暮姫吉に対し右数量価格のパチンコ機を移出したのは昭和三十年六月下旬であることが明らかであり、このことは当審証人籾山信子に対する尋問調書に徴しても疑がない。したがつて、右の小暮姫吉に対して移出した分は昭和二十九年六月分の計算からこれを除外すべきである。

(二)、内訳表の昭和二十九年七月分(原判示第二の事実)中に武士俣はんに対しパチンコ機四十台を価格二十万円(単価五千円)で移出し、これを申告しなかつた旨の記載がある。武士俣はん(かもめ遊戯場)は検察官に対する供述調書において右記載に照応する買受の事実を述べているが、籾山信子に対する前掲質問てん末書添付の物品税ほ脱額調査表によれば、被告人会社がかもめ遊戯場に右数量価格のパチンコ機を移出したのは同年十月十日である。しかして、当審証人籾山信子に対する尋問調書によると、右調査表は、被告人会社備付の帳簿額によつて調査した結果を記載したもので、信頼するに値するものと認められる。したがつて、右の武士俣はんに対して移出した分は、昭和二十九年七月分の計算からこれを除外すべきである。

(三)、内訳表の昭和二十九年七月分(原判示第二の事実)中に朴勝永に対しパチンコ機二十台を価格十一万円(単価五千五百円)で移出し、これを申告しなかつた旨の記載があり、内訳表の同年八月分(原判示第三の事実)中に同人に対し同機械十四台を価格七万七千円(単価五千五百円)で移出し、これを申告しなかつた旨の記載がある。朴勝永の検察官に対する供述調書には、以上に照応する買受の事実についての供述記載があるが、籾山信子に対する前掲質問てん末書添付の物品税ほ脱額調査表には右に相当する朴勝永に対する各移出についての記載がないこと、朴勝永が大蔵事務官の質問てん末書において被告人会社とは昭和三十年一月の取引以前には取引がなかつた旨述べ、当審公廷では自分の店では機械を取り替えるときは全部を取り替えるのであつて、二十台、十四台というような半端な数の機械を買い入れたことがない旨証言していることに徴すると、内訳表記載の前記朴勝永に対する二回の移出が事実行われたかどうか甚だ疑わしく、結局この点については証明が充分でないといわなければならない。したがつて、この分も昭和二十九年七月分及び同年八月分の各計算からこれを除外すべきである。

(四)、堀正敬、首藤育久、大島良平、張忠三及び添谷栄子の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官の首藤育久に対する質問てん末書(調書添付)、大蔵事務官の添谷栄子に対する質問てん末書によると、論旨が中古品であると主張するもののうち、内訳表記載の被告人会社が昭和二十九年六月中に堀正敬に対して移出した単価三千八百円のもの十九台、昭和三十年六月中に首藤育久に対して移出した単価三千五百円のもの二百六十台、同年八月中に大島良平に対して移出した単価四千円のもの三十台、張忠三に対して移出した単価五千円のもの三十二台及び添谷栄子に対して移出した単価四千円のもの十五台(以上パチンコ機)はいずれも新品であることが明らかであるが、大蔵事務官の大島正一及び大藤昭二に対する各質問てん末書、首藤育久に対する右質問てん末書、右三名の検察官に対する各供述調書に当審証人籾山信子及び同早川弘に対する各尋問調書を総合すると、内訳表記載の、被告人会社が(1)昭和二十九年八月中に大島正一に対して移出した四十台(単価は千三百円で、内訳表に五千円とあるのは誤と認められる)及び首藤育久に対して移出した単価千三百円のもの三十台(原判示第三の事実関係)、(2)同年九月中に首藤育久に対して移出した単価千八百円のもの二十台、単価千五百円のもの四十台及び単価二千円のもの三十一台並びに「丸フジ」に対して移出した単価千八百円のもの五十一台(原判示第四の事実関係)、(3)同年十二月中に首藤育久に対して移出した単価二千円のもの百五十台及び単価千五百円のもの十台(原判示第七の事実関係)(以上パチンコ機)、(4)昭和三十年七月中に大藤昭二に対して移出した単価三千円のもの四十台(スマートボール機)(原判示第十四の事実関係)は、いずれも中古品であることが認められる。

次に、右のごとき中古品が本件当時施行されていた旧物品税法による課税の対象となるかどうかについて審按するに、同法所定の第二種物品の製造者がその製造にかかる物品を製造場から移出する場合には該物品につき物品税が課せられる。ここに製造とは、材料または原料に物理的操作を加え若しくは化学的変化を与えることによつて一つの物を作り出す行為をいい、この場合材料または原料は新品であると中古品であるとを問わず、素材であると製品であるとを問わないものと解すべきである。したがつて、製造者が中古品に修理、加工、改造等を加えてこれを移出する場合に、それが課税の対象となるかどうかは、その行われた修理等が右の製造の概念に適合するかどうかによつて定まるのであり、たとえば、中古機械に塗装を施し、不良部品のみを取りはずしてこれを取り替えるなどの簡単な加工を施す行為は、製造とはいえないが、その機械全部を解体し、部品を取捨選択したうえ不足部品を補充し、それらを材料として新たに一つの完成品に組み立てる行為は、製造に当るものといわなければならない。当審証人早川弘に対する尋問調書によると、被告人会社は単価千円ないし三千円で移出したパチンコ機等の中古品については、その移出前に単に外装に若干の加工を施しただけで、本体にはなんら手を加えなかつたことが認められる。しかして、右程度の加工は、旧物品税法にいわゆる製造には当らないから、前掲(1)ないし(4)の中古品は申告を要しない非課税物件であり、したがつて、それぞれの当該月分の逋脱額の計算からこれを除外すべきである。ただし、原判決の引用証拠によると、被告人会社は、内訳表にも明記されているとおり右(1)(2)の中古品については実際の移出価格と同額の若しくはそれより多額の金額を申告していることが明らかである。すなわち、被告人会社は、申告を要しない非課税物件について申告をしたことになるのであるが、当該月分全体の逋税額を算定するについては、課税物件についての総不申告額から右のような非課税物件についての申告額を控除した残額を基準にすることが衡平の理念に適合するものというべきである。

以上を要するに、原判決は、第一ないし第三において移出の事実を誤認し、更に第三、第四、第七及び第十四において移出中古品を新品と誤認したか、または中古品もすべて課税の対象となるとの誤つた法解釈に従つたものであり、以上の誤はひいて逋脱額に相当多額の誤算を生ぜしめるものであつて、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

被告人会社代表者の控訴趣意及び平井弁護人の控訴趣意第四点中、原判決が被告人会社に対し原判示第五、第六、第八ないし、第十三、第十五及び第十六の各罪につき量定した刑が不当である旨の主張について。

記録並びに当審における事実取調の結果により所論各犯行の罪質、動機、態様、逋脱額、被告人会社の経営及び資産状態、その他諸般の情状を検討すると、所論の諸事情を考慮しても、原判決が右各罪につき量定した刑が重きに失し不当であると認めることはできない。論旨は理由がない。

よつて、被告人会社の控訴中原判示第五、第六、第八ないし第十三、第十五及び第十六の各罪に関する部分は理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却し、原判示第一ないし第四、第七及び第十四の各事実には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤があるので、同法第三百九十七条、第三百八十二条、第三百八十条により原判決中被告人会社の右各罪に関する部分を破棄し、なお、原判決は被告人栗原に対し懲役と罰金を併科し、懲役刑については右各罪を含む原判示罪全部が併合罪の関係にあるとして一個の刑を量定しているので、右各法条により原判決中同被告人に関する部分全部を破棄し(右各破棄部分に関する量刑不当の主張については判断を省略する)、同法第四百条但書により右各部分につき次のとおり自判する。

(罪となるべき事実―原判示第一ないし第四、第七及び第十四の各事実に代るべきもの)

被告人会社は、群馬県桐生市新宿通三丁目六百十三番地の四に本店を有し、旧物品税課税物件である遊戯具パチンコ機その他各種木工品の製作並びに販売を目的としていたもの、被告人栗原茂喜は、被告人会社の無限責任社員としてその業務全般を統轄処理していたものであるが、被告人栗原は被告人会社の業務に関し、

(一)、昭和二十九年六月中に被告人会社で製造したパチンコ機三百六十台をその製造場から小林宏ほか四名に対し税込価格合計百七十三万四千七百円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し同月中にパチンコ機二百六十二台を税込価格合計百十二万九千円で移出した旨過少に記載した虚偽の課税標準額申告書を提出し、よつてその差額九十八台、この税込価格六十万五千七百円に対する物品税八万五千八百円を納付しないで逋脱し、

(二)、同年七月中に被告人会社で製造したパチンコ機四百七十四台をその製造場から渋谷富司ほか六名に対し税込価格合計三百三十八万八千五百円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し同月中にパチンコ機三百六台を税込価格合計百四十三万三千五百円で移出した旨過少に記載した虚偽の課税標準額申告書を提出し、よつてその差額百六十八台、この税込価格九十五万五千円に対する物品税十三万五千二百九十円を納付しないで逋脱し、

(三)、同年八月中に被告人会社で製造したパチンコ機四百七十四台をその製造場から野村富雄ほか七名に対し税込価格合計二百二十二万八千七百円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し同月中にパチンコ機四百七台を税込価格合計百八十一万八千七百円(申告不要の移出中古品について申告した金額十一万二千円を含む)で移出した旨過少に記載した虚偽の課税標準額申告書を提出し、よつてその差額六十七台、この税込価格四十一万円に対する物品税五万八千八十円を納付しないで逋脱し、

(四)、同年九月中に被告人会社で製造したパチンコ機五百七十八台をその製造場から青木とみほか九名に対し税込価格合計二百八十五万七千五百円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し同月中にパチンコ機三百九十二台を税込価格合計百九十三万四千六百円(申告不要の移出中古品について申告した金額二十七万七千百円を含む)で移出した旨過少に記載した課税標準額申告書を提出し、よつてその差額百八十六台、この税込価格九十二万二千九百円に対する物品税十三万七百四十円を納付しないで逋脱し、

(五)、同年十二月中に被告人会社で製造したパチンコ機九百五十二台をその製造場から松山三郎ほか六名に対し税込価格合計四百八十四万三千五百円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し同月中にパチンコ機七百四十台を税込価格合計二百八十二万七千円で移出した旨過少に記載した虚偽の課税標準額申告書を提出し、よつてその差額二百十二台、この税込価格二百一万六千五百円に対する物品税二十八万五千六百七十円を納付しないで逋脱し、

(六)、昭和三十年七月中に被告人会社で製造したパチンコ機及びスマートボール機五百七十二台をその製造場から金子喜太郎ほか十一名に対し税込価格合計二百三十三万一千円で移出販売したにかかわらず、所轄桐生税務署に対し翌月十日までに申告せず、よつて右数量価格に対する物品税三十三万二百二十円を納付しないで逋脱し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

原裁判所並びに当裁判所の被告人栗原に対して認定した各罪となるべき事実に法令を適用すると、同被告人の各所為は昭和三十七年法律第四十八号物品税法附則第十四条、昭和三十四年法律第百五十号旧物品税法の一部を改正する法律附則第二十三項、右改正前の旧物品税法第一条第一項(第二種丁類三十八)、第十八条第一項第二号、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内において被告人栗原を懲役一年に処し、諸般の情状にかんがみ刑法第二十五条第一項により本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人栗原は被告人会社の無限責任社員としてその業務に関し判示(一)ないし(六)の各違反行為をしたのであるから、被告人会社に対しては被告人栗原の各所為に対する前掲各該当法条(附則を含む)のほか右改正前の旧物品税法第二十二条を適用したうえ、被告人会社を判示(一)の罪につき罰金四万円に、判示(二)の罪につき罰金六万円に、判示(三)の罪につき罰金三万円に、判示(四)の罪につき罰金六万円に、判示(五)の罪につき罰金十四万円に、判示(六)の罪につき罰金十六万円に処し、原審並びに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人栗原及び被告人会社に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂間孝司 栗田正 有路不二男)

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