東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1003号・昭37年(ネ)1002号・昭37年(ネ)255号 判決
控訴人は原審における昭和三三年六月一二日午前一〇時の第一回口頭弁論期日及び同年七月一七日午前一〇時の第二回口頭弁論期日において援護会が国から本件宅地を昭和二八年三月四日の本件宅地払下契約により買受けたこと及び被控訴人等及び脱退被控訴人等が本件宅地の共有者であることを自白しながら、その後右自白を撤回したが被控訴人等及び参加人は右自白の撤回に異議を述べているので、右自白撤回が有効であるか、否かについて考えるに、自白の撤回が真実に反し、錯誤に基く場合の外許されないのは事実についての自白に関してのみであつて、権利状態に関する自白、いわゆる権利自白については右のごとき制限はないものと解すべきであるところ、控訴人において被控訴人等が本件宅地の所有権者(共有者)であること及び脱退被控訴人等が本件宅地の共有者であつたことを認めながら、後に、これを争うに至つたのは権利自白の撤回に過ぎず、その撤回について事実の自白に関するような制限はないものというべきである。又自白は事実に関してのみ拘束力を有し、その法律効果にまで及ぶものではないから、本件宅地払下契約がなされた事実については自白の拘束力が及ぶが、本件宅地払下契約が有効であるか否か、及び本件宅地払下契約の効力阻却事由の主張を後になすことまで制限されるものではない。控訴人が原審においてなした錯誤その他本件宅地払下契約の効力阻却事由の主張をしたのは自白の撤回に当らなかつたものというべく、唯本件宅地払下契約が申込と承諾の不一致により、成立しなかつた旨の主張(原審における控訴人の主張はこの点において明確を欠くが、本件宅地払下契約が国と援護会との間に成立したことまで否認したものではなく、一応国と援護会の間に成立した本件宅地払下契約の無効事由を主張しているものと解するのが相当であるから、原審においては事実に関する自白の撤回はなかつたものというべきである。)のみが、事実に関する自白の撤回に当り、そのような自白の撤回は当審においてはじめて控訴人がしたものというべきである。しかして右自白の撤回についても被控訴人等及び参加人は異議を述べていることは明らかであるから、右自白の撤回の効力について検討するに、本件宅地払下契約における買受申込は買受人を援護会と表示してなされたのに対し、国が援護会に対し売渡しを承諾したことは控訴人の自認するところであつて、被控訴人佐々木又信が真実の買受人は援護会ではなく、同被控訴人であることを表示して右買受申込をしたことは控訴人も主張しないところであり、かつ、かかる事実を認めるべき証拠は全く存在しないのであるから本件宅地払下契約においてはその契約の相手方に関する限り意思表示自体には何等の不一致も存在しなかつたものであつて、右不一致の存在を前提とする右自白の撤回は無効といわなければならない。従つて国と援護会との間に本件宅地払下契約が成立したこと(その契約が錯誤その他の理由により無効であるか、否かは別として)は当事者間に争いがないものというべきである。
(牛山 岡松 今村)