東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1029号 判決
佐伯精機は昭和三十四年二月当時は事業不振で、貸借対照表上の損失は二千数百万円に達し、その所有不動産は概ね担保に供されており(被控訴人の前認定の債権は無担保)、資金繰りは相当窮屈ではあつたもののその目的事業である鋼材等の販売業は依然として継続しており、銀行取引も行つていたこと及び控訴人は予てから佐伯精機に対し鋼材を売り込んでいたが、昭和三十四年二月頃からはその代金の支払のために受け取つていた約束手形の支払が後れ勝になつたので、佐伯精機に対しその主要取先引であるブリジストンに対する取引上の債権(将来発生すべき債権を含む)を控訴人に担保に供する約束の下に佐伯精機との取引を継続しこれに更生の途を開く方針を定め、佐伯精機との間に本件債権譲渡の契約をするとともに、佐伯精機の更生が不能の場合にはその名義で債権譲渡の通知をブリヂストンに発送するという諒解の下に佐伯精機から同通知書を預かり、同年六月一日まで佐伯精機との取引を継続したが、その更生の望がなくなつたので同月十七日遂に右通知書をブリヂストンに発送したことが認められ、被控訴人の全立証によつてもこの認定を動かすことはできない。
以上の事実と控訴人が佐伯精機から現実に譲り受けた債権が何れも昭和三十四年五月一日以後に生じた債権であつて、本件債権譲渡契約当時被控訴人の債権の一般担保となつていたものでないこと(このことは控訴人の主張自体によつて明瞭である)とは要するに、佐伯精機も控訴人もともに佐伯精機の更生を慮つて本件債権譲渡契約をしたのであつたが、こと志と違い佐伯精機は更生の望を失つたものであることを物語るものであつて、このことは、債務者が弁済資力をうる唯一の手段として財産を売渡担保に供して事業資金を調達したが事業が成功しなかつた場合に類似するものと考えられる。しかして、このような場合に詐害行為が成立するとするのが債権者に債務者の財産の処分に対する不当な制限を許容するものであることは債権の性質上疑のないところであるから、本件債権譲渡契約は詐害行為を構成するに由なく、これが詐害行為となるべきことを前提とする被控訴人の第二次的請求もまた他の判断を待つまでもなく、その理由のないものといわなければならない。
(牛山 田中 岡松)