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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1233号 判決 1963年12月21日

都民信用組合

理由

証拠を総合すれば、被控訴人は昭和三四年三月頃猪狩安啓と、同人に金銭の貸付等をする契約を結んだ事実を認めることができ、この認定を動かし得る証拠はない。

被控訴人は、右の契約の際に控訴人が被控訴人に対し、猪狩を代理人として、同人が右の契約にもとづいて被控訴人から借受けることのあるべき金員ならびにその利息及び損害金の支払債務につき、連帯保証をする旨を約したと主張する。そして、前記甲第二号証の一(約定書)中控訴人作成名義の部分には右の主張に副う記載があり、前掲猪狩、須永両証人の証言中には右の主張に副う部分がある。しかし、右両証人の証言部分は当審における控訴本人の供述と対照すると何れも信用しがたく、また右甲第二号証の一の控訴人名下の印影が控訴人の印顆によるものであることは当事者間に争いがないけれども、以下に認定する事実から考えると右甲号証は真正に成立したものと認めることができないからこれを本件事実認定の資料とすることを得ず、他に被控訴人の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。却て当審における控訴本人の供述によれば、猪狩安啓は控訴人の父から工場を賃借してビニール加工業を行い、控訴人は昭和三三年頃から昭和三五年頃までの間猪狩の使用人として働いていたものであるが、昭和三四年三月頃控訴人は親戚の者の保証人となるために自己の印鑑証明書一通(甲第二号証の二)を取りこれを自己の印鑑とともに前記工場の事務所の机の引出しの中に入れて置いたところ、猪狩はその頃被控訴人との間に締結した契約を記載した前記約定書(甲第二号証の一)の連帯保証人欄に勝手に控訴人の氏名を記載し、その名下に控訴人の前記の印鑑を無断で押捺し、前記印鑑証明書を無断で持出して右の約定書に添付してこれを被控訴人に提出した事実を窺うことができる。したがつて、控訴人が猪狩を代理人として被控訴人との間に被控訴人主張のような連帯保証契約を結んだ事実は全くないと認めざるを得ない。

してみれば、右の事実を前提とする被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないこと明らかであるから、これを認容した原判決は取り消しを免れない。

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