大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1674号 判決

最後に控訴人の民法第一一〇条の表見代理に関する主張について考えるのに、原審及び当審証人窪田賢、同今泉喜美の各証言によれば、喜美は被控訴人との結婚前から実家の経営する会社の会計業務を担当していたのであるが、結婚後においても室内の内装、床板工事等を営業とし被控訴人が代表取締役の地位にあつた株式会社更新社の会計事務に関与し、債務の支払、銀行との取引等を同女においても行つていたほか、被控訴人名義で手形を振り出したこともある事実が認められる。原審における被控訴人今泉康夫の本人訊問の結果中右認定に反する部分は採用せず、他にこの認定を左右するような証拠は存在しない。そうして昭和三三年中に喜美が窪田の依頼により被控訴人振出名義の約束手形四通(甲第六号証の一ないし四)を作成して窪田に交付し、被控訴人もこのことを承知していた事実が認められることは前述のとおりである。以上の事実に徴して考えれば喜美は被控訴人名義で前記甲第六号証の一ないし四の約束手形四通を振り出す権限を被控訴人から与えられていたものであり、右各約束手形の金額程度の額面の手形を被控訴人名義で振り出す権限を被控訴人から付与されていたものと推認するのを相当とし、他に右認定を左右するような証拠は存在しない。そうして前記認定に供した各証拠に原審における被控訴人今泉康夫の本人訊問の結果を併せれば、次の事実を認めることができる。すなわち窪田は昭和二八、九年頃喜美と知り合つたのであるが、以来同女と親交を結び、被控訴人方に家族のようにして出入し食事をしたりしたこともあつて、喜美が前記認定のとおり会計事務に関与し、甲第六号証の一ないし四の約束手形四通を含めて被控訴人名義で手形を振り出していたことを知悉しており、同女が本件約束手形二通の振出についても被控訴人を代理すべき権限を有するものと信じていた。以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するような証拠は存在しない。そうして右認定の事実によれば、窪田において右のように信じた点については正当の理由があつたものと解するのを相当とするから、喜美のなした本件約束手形二通の振出は、民法第一一〇条の表見代理の法理により、振出名義人である被控訴人に対しその効力を生ずるものといわなければならない。

(牧野 満田 藤田)

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