東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1938号・昭37年(ネ)1889号 判決
吉男は昭和三二年一二月二五日ごろ、第一審被告やその妻仲山まきを介して、仲山末吉から金七〇万円を弁済期を三ケ月先と定めて、借受け、その際前記のように右貸金七〇万円を含む末吉からの従前および将来の借金に対する担保として本件土地につき根抵当権を設定したのであるが、末吉ら貸主側はそれまでの貸金に対する吉男の返済状況等から右七〇万円の貸金の回収確保のためには単に根抵当権設定を受けるだけでは不安であると考えて吉男に要求した結果、同月末ごろ末吉の了解のもとに、第一審被告と吉男との間に、右貸付より三カ月余を経過した昭和三三年四月に至りなお右七〇万円の返還がなされない場合には、吉男から第一審被告に対し本件土地を代金七〇万円で売渡し、その代金は末吉に対する右七〇万円の借入金をもつて当てる旨の契約がなされ、乙第六号証の売渡証書が授受されたものと認めることができる。そして、右の約定は昭和三三年四月に至つてなお右七〇万円の返還債務が履行されない場合には、第一審被告において右の趣旨の売買を成立させる意思を表明すれば、それによつて右売買が成立する一種の売買予約の性質を有するものと解せられるところ、第一審被告が前記乙第六号証記載の売買により本件土地所有権を取得したとして昭和三三年四月一四日静岡地方裁判所浜松支部に第一審被告を申請人、吉男を被申請人とする仮登記仮処分命令を申請し、翌一五日同裁判所により発せられた右命令の正本が当時吉男に対し送達されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第七号証によれば右仮登記処分命令は、本件土地に対する昭和三三年四月九日付売買による所有権移転の仮登記を命ずるものであるから、かかる内容の仮登記仮処分命令正本の送達により、第一審被告の前記認定にかかる売買を成立させる意思は吉男に対し表明されたものということができる。そして、当時吉男が右七〇万円の返還債務を履行していたことは証拠上認められないから、遅くとも右正本の送達が吉男に対しなされたころには、第一審被告と吉男との間に前記の趣旨による売買が成立し、これによつて第一審被告は本件土地の所有権を取得したものと解するのが相当である。第一審被告が売買ないし代物弁済予約およびその完結の意思表示があつたとして主張するところは、右七〇万円の貸借が第一審被告と吉男間でなされたとする点、およびその法律構成において、右と全く同一であるとはいえないけれども、前者は売買代金に充当される貸金債権の帰属についての差異に過ぎず、代金を七〇万円とする売買という観点では異なるものではなく、また、第一審被告の主張にかかる具体的事実に鑑みれば、売買予約というも代物弁済予約というも単に法的評価の差異にすぎないといえるから、これらの点は右の認定が第一審被告の申立事項の範囲内に属するとみることの妨げとなるものではない。
(岸上 田中 大石)