大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1945号 判決

控訴人は昭和三十六年三月二十五日東京都杉並区内に十二、三坪位の家屋を建築するため、訴外武陽木材株式会社に対し入梅までに引渡す約束で木材を注文し、その前渡金にあてるため本件手形を振出して同会社に交付した。そこで同会社の社長岡部治作は、本件手形の割引を得てその金で原木を買入れるべく、同年四月四日頃訴外田嶋志津子に対し、その旨を話して本件手形の割引方を依頼したところ、右訴外人がこれを承諾したので、本件手形に白地式裏書をしてこれを右訴外人に交付した。翌五日前記岡部治作が本件手形割引の件をただしたところ、右訴外人は割引ができない旨を述べたので、右岡部治作が本件手形の返還を求めると、右訴外人は主人(被控訴人)が本件手形を持出してどこへ行つたか判らないと答えた。そこで右岡部治作は右訴外人に対し本件手形を主人から取戻してくれるように頼んで帰つたのであるが、その後右訴外人は前記会社の雇人橋本某らが右訴外人方で飲食したから、前記会社で右飲食代金八万九千五百八十円を支払うことを承諾しなければ本件手形を返さないと言つてその返還を拒絶するに至つた。前記会社としては右訴外人に対し右飲食代金を支払はなければならない理由はなかつた。右訴外人が割引もせず、また本件手形を返してくれなかつたので、前記会社は原木が買えず、従つて控訴人に対し木材引渡の約束を果すことができなかつた。それで控訴人の要求どおり、本件手形を控訴人に返還しなければならない破目になつた。一方前記田嶋志津子は、前記会社に対し前記飲食代金支払請求権ありとして、右会社を被告として秩父簡易裁判所に対し同庁昭和三十六年(ハ)第二八号売掛代金請求訴訟を提起したが、右事件は別途に解決して同年十二月十六日右訴を取下げた。(右訴の提起並びに取下については当事者間に争がない。)

以上の事実が認められ、他に何らの反証がない。而して前記訴外田嶋志津子が被控訴人の妻であることは当事者間に争がなく、被控訴人が右訴外人以外の者から本件手形を取得したことについては、これを認むべき証拠は全くない。

以上説示したところに徴すれば、前記武陽木材株式会社から依頼を受けながらその割引に応じなかつた前記訴外田嶋志津子は本件手形を右会社に返還すべき義務があり、右会社はこれを控訴人に返還しなければならないのに、右訴外人はこれを夫たる被控訴人に交付譲渡し、また被控訴人は控訴人を害することを知りながら、本件手形を取得した悪意の所持人であると断ぜざるを得ない。

(谷本 野本 海老塚)

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