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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2187号 判決 1963年7月18日

控訴人(原告) 今野貞夫 外四名

被控訴人(被告) 水戸税務署長

補助参加人 金田満男

訴訟代理人 小林定人 外三名

主文

1、原判決を取り消す。

2、本件を水戸地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取り消す、被控訴人が別紙第一目録記載の土地(以下甲地という)につき昭和三三年四月一七日した公売処分を取り消す、訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人との間に生じたものは被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人補助参加人との間に生じたものは同参加人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は左記一ないし三のとおり附加、訂正したほかは原判決事実の欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。

一、控訴人等代理人の主張

(一)  控訴人大富合資会社が訴外富田きくから甲地の出資をうけた日は昭和二九年二月一六日である。

(二)  右控訴会社を除く他の控訴人等は右控訴会社から従来別紙第二目録記載の土地(以下乙地という)の各一部を賃借してこれを使用していたが、昭和二八年一二月二五日甲地につきこれの仮換地として乙地の一部が指定されたので、右控訴人等は右の各賃借地を継続してそのまま賃借使用するため、昭和二九年二月一六日改めて控訴会社との間で甲地についてそれぞれ賃貸借契約を結んだのである。

(三)  本件公売処分には控訴人等が従来主張しているような瑕疵があり、これは明白かつ重大であるから、右処分は本来無効なものと評価されるべきである。ただこの処分は外観上一応存在しているといわざるをえないので、控訴人等は原審以来抗告訴訟の典型たる処分取消の方式により本訴を遂行しているのである。すなわち、本件処分は本来無効というべきものであるから、被控訴人は甲地につき正当な取引関係にたつものとはいえず、それ故被控訴人は控訴人等に対し甲地についての所有権、賃借権等の取得の対抗要件の欠缺を主張しうべき資格がなく、右対抗要件の欠缺を理由に控訴人等に本訴の利益なしとすることはできない。

二、被控訴代理人の主張

控訴人等主張の前記(一)の事実は不知、同(二)の事実のうち控訴会社を除く他の控訴人等が右控訴会社から従来乙地の各一部を賃借してこれを使用してきたこと(但し控訴人今野についてはその妻が賃借人である)、控訴人等主張のような仮換地の指定がなされたことは認めるが、その余は不知、同(三)の事実および見解は争う。

三、証拠関係<省略>

理由

被控訴人が甲地をその登記簿上の所有名義人訴外富田きくの所有地なりとし同訴外人に対する国税滞納処分として競売による公売に付すことにし、公売期日昭和三三年四月一七日、公売場所水戸税務署、最低公売価額一六六万六、四〇〇円、契約保証金競落価額の一〇分の一以上、代金納付期限同年四月二一日午後三時と定めて同月一七日同所で競売の方法による公売を執行したこと、被控訴人が競売の当日参加者に対し最高価額競買申出人が契約保証金を即時納入しないときは次位のものを競落人とするという方法で競売を行う旨告知したうえ、競売を開始したところ、競買申込価格が順次せりあげられ被控訴人補助参加人が二二〇万円で買受申出をした直後、訴外菅谷スエが一躍二九〇万円の買受申込をなし、その後それ以上の買受価格の申出人がなかつたので、菅谷スエが最高競買価額申出人となつたが、同人が即時保証金を納入しなかつたため、被控訴人によつて次位者であつた右補助参加人が競落人と決定されたこと、控訴人等が右競売による公売処分を不服としこれの取消を求めて昭和三三年五月一七日関東信越国税局長に対し再調査の請求をなしたが、控訴人等主張の経緯によつて右請求が審査の請求とみなされ、同年一二月一九日同局長から右請求を棄却する旨の決定がなされ、これが同月二一日控訴人等に告知されたことはいずれも当事者間に争がない。

そこで控訴人等が右公売処分の取消を求める適格を有するかどうかについて判断する。

控訴会社が本件公売処分当時甲地についてその所有権を主張していた事実は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一、二号証によると、昭和三二年六月二〇日に訴外富田きくの相続人訴外富田直輔と控訴会社との間で甲地の所有権の帰属につき裁判上の和解が成立し、これにより右直輔は右きくが控訴会社に対し甲地ほか数筆を昭和二九年二月一六日出資したことを認め、これにつき控訴会社に対し同出資による所有権移転登記手続をする旨の和解ができたのであるが、右登記手続がなされないまま本件公売処分時にいたつたことが認められこれに反する証拠はない。

控訴会社および控訴人今野を除くその余の控訴人等が従来から控訴会社よりその所有の乙地の各一部を賃借し、その地上にそれぞれ建物を所有しこれを店舖として営業していることは当事者間に争がなく、前出甲第二号証と本件弁論の全趣旨によると控訴人今野もまた従来控訴会社から乙地の一部を賃借し、その地上にその妻都恵名義で建物を所有しこれを店舖として営業していることが認められ、これに反する証拠はない。

ところで水戸復興土地区画整理事業の換地計画に基き昭和二八年一二月二五日甲地につきこれの仮換地として乙地の一部が指定されたことは当事者間に争がなく、前出甲第一、二号証、成立に争のない乙第三号証、原審証人野本昭の証言とこれによつて成立を認めうる乙第二号証、原審証人吉沢博巳、石川次男、梅沢清、弓削徳介(第一、二回)、金田満男の各証言、原審における控訴人古矢福松本人尋問の結果、本件弁論の全趣旨を綜合すると次の事実を認めることができる。

控訴会社を除くその余の控訴人等は右の仮換地の指定によつて、乙地を使用することができず乙地上の建物を他に移転せねばならないこととなつたので控訴会社やその社員、その他の控訴人等が協議した結果、昭和二九年二月一六日右社員であつた前記富田きくは甲地を控訴会社に出資してこれの所有権を控訴会社に譲渡することにし、控訴会社は新たにその他の控訴人等との間で甲地につき賃貸借契約を結んで、右控訴人等が甲地の仮換地たる乙地の各一部を従来どおり使用しうるようにした。しかし右控訴人等の右の賃借権については登記が経由されなかつた。

しかるにその後も甲地の所有名義が富田きくのまま放置されたので前記のように昭和三三年四月一七日右きくに対する国税滞納処分として本件公売が行われることになつた。ところで本件公売により甲地が控訴人等やその関係者以外のものによつて競落された暁には控訴会社はその所有地を失うことになるし、その余の控訴人等は結局乙地の使用ができなくなりその受ける打撃が大きいので、控訴人等は本件公売に参加して何とかして控訴人等又はその関係者において甲地を競落しなければならないと考え、現に控訴人今野、同古矢、同小野瀬はいずれもその本人が、控訴人梅沢はその夫梅沢清が、控訴会社はその代表者たる大貫記一が、いずれも本件公売期日に公売場所に赴き、本件公売に参加したのであるが、一方甲地につき富田きくの相続人富田直輔等がなおこれの所有権等を主張しており、同人およびこれらの応援者らもまた甲地を競落しようとして本件公売に参加したので、本件公売には合計一二名のものが参加したが、これらのものはおゝむね控訴人等グループとその他のもののグループと二派に分れて対立し、お互に甲地を競落しようと努力した。

本件公売は競売の方法によつて行われ、競売物件たる甲地の競買申出価額は最低公売価額一六六万六、四〇〇円から始められ、次第にせり上げられていつたのであり、競買価額の申出について控訴人等グループにおいては内部的に同グループを代表した梅沢清のみがもつぱら右の申出を行い、他のグループにおいては各自がこれを行つたのであるが、右清の申出と他のグループ各自の申出とは正確に規則正しく交互に行われ、そのようにして申出価額が順次せり上げられていつた。このような状態でこのせり合いは二二〇万円まで小きざみに順調に進められ、特に二〇〇万円を超えた後は殆んど一、〇〇〇円、多くとも数千円きざみという小きざみな状態でせりあげられていつたのであるが、控訴人等グループに属さない被控訴人補助参加人金田(以下単に金田という)が二二〇万円の申出をした直後すかさず金田と親戚関係があり控訴人等のグループに属さない訴外菅谷スエが唐突にしかも一挙に七〇万円せり上げた二九〇万円の申出をし、これに驚いた梅沢清は右の申出を二二九万円なりと感違いして二二九万一、〇〇〇円というつもりで二九〇万一、〇〇〇円と発声して申出をしたが、側にいた石川次男に感違を注意されてあわてて右の申出を撤回し、この撤回は被控訴人の許容するところとなつた。その後右スエの申出価額二九〇万円をこえる申出をするものがいなかつたのでスエが最高競買価額申出人となつたが、同人は何故かぐずぐずしていて即時に契約保証金を支払おうとしなかつたので結局被控訴人によつて金田が次位者として競落人と決定された。

かように認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

以上のような当事者間に争いのない事実および認定事実からすると、控訴人等は本件公売が適法に行われることにつき重大な利害関係を有するものであることが明らかである。

すなわち、右事実によると、なるほど控訴会社は甲地につき所有権取得登記を経ておらず、その余の控訴人等も甲地の賃借権につきその登記を経ていないものであることがわかるけれども、それ故にこそ、本件公売が行われるにいたつたのであり、またこの公売の結果控訴人等およびその関係者以外のものが甲地を競落することになるにおいては、控訴会社はその所有権を失い、その他の控訴人等は乙地上の営業用店舖を失う結果になるのであつて、まさにそのような関係にあるからこそ、前記のように前記控訴人等および控訴人等関係者等が本件公売に参加し甲地を競落しようと努力しなければならなかつたということを窺知するに充分である。しかも、もし本件公売が前記のように最高競買価額申出人が契約保証金を即時納入しないときは次位のものを競落人とするという競売の方法(このような競売の方法が次位者と最高競買価額申出人との間の価額で競買の申出をしようとするものの競買申出の機会を不当に奪うものであることは自明の理であり、その結果、さらに高く競売されうべかりし目的物件が安く競売され、物件所有者とされた国税滞納債務者が不利益を蒙ることもまた明らかである。のみならず、最高競買価額申出人が契約保証金を納入しない場合でも同申出人は何等の不利益を蒙らず、これを納入するかどうかが全く同申出人の恣意にゆだねられている場合((本件弁論の全趣旨によると本件競売がかかる場合にあたることが明らかである))においては右のような競売の方法は次位者になろうと欲するものと最高競買価額申出人になろうと欲するものとがあらかじめ相談することにより、容易に次位者が不当に廉い価額において競落人になることのできる方法であることもまた見易い理である)によつてとり行われなかつたならば、前記公売参加控訴人等またはその関係者等が甲地の競落人になれる可能性が充分にあつたことを推測するに難くない。

これらの事情に鑑みるときは、控訴人等は本件公売処分の取消を訴求するにつき法的保護に値する利益、すなわち法律上の利益を有するものであるとみるのが相当である。

以上の次第で、控訴人等が本訴を提起するにつき法律上の利益を有しないとして控訴人等の本件請求を却下した原判決は失当として取消を免れず、本件は原審に差し戻されるべきものである。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第三八八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 堀田繁勝 海老塚和衛)

(別紙第一、第二目録省略)

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