東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2523号 判決
控訴人は「本件調停調書は期日に作成されておらず、席上では裁判官から調停条項として記載してあることを書いたメモを読聞かされただけで、その他の部分は読聞かされなかつた。調書末尾に、右調書は前同所で関係人に読聞かせたところこれを承諾したとあるのは事実に反するから、右調停調書は法定の要件を具備せず無効である。」「右調書は単にメモを口授しただけで、当事者の合意を調書に記載しなかつたから、憲法第七六条第三項に違反し、民事調停法の精神に反する。」と主張している。
本件調停調書が当事者に読み聞ける当時作成されておらず、また調停成立の際申立の表示、趣旨及び事情の部分を読聞かされていないことは、原審証人石川均の証言により明らかである。本来調停において当事者間に合意が成立した場合の調書は、その期日終了までに作成すべきものであるが、たとえ期日後に作成されたとしても、調書として法定の形式をそなえている限り、その効力に欠けるところはない。また、調停調書については特別の記載要件はなく、調書に調停条項のほかに申立の趣旨、事情を記載するのは既判力の範囲を明らかにするのに役立つが、特にこれを読聞かせねばならぬとする法律上の根拠なく、また実際上申立書副本は相手方に送達されるから調停開始前から当事者双方その内容を予かじめ知つており、かつ調停期日においてもそれらの事柄がとり上げられるのであるから十分知悉している筈であつて、調停成立の際改めて読聞かせなくても、当事者に不利益を与えるおそれはないので、これを省略しても調停の無効を来たすことはない。そして、本件調停において調停条項のような合意が成立したことは前に認定したとおりであり、しかもその内容が席上で読聞かされたことは控訴人も自認しているところであるから、その確実性も疑う余地なく、控訴人の主張はこれまた理由がない。
(脇屋 渡辺一 太田)