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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2894号 判決 1963年3月12日

控訴人 柏熊恒

被控訴人 国 外一名

主文

被控訴人東京高等裁判所に関する本件控訴を棄却する。

被控訴人国に関するる本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、まず被控訴人東京高等裁判所に関する控訴について考える。

控訴人の同被控訴人に対する本訴請求は要するに行政庁としての同被控訴人を相手方として、東京高等裁判所民事事件受付係職員が控訴人に対し控訴人が同受付に提出した反訴状に二、〇〇〇円の印紙を加貼させたことの違法を理由として、その違法の確認を求めると共に右加貼印紙二、〇〇〇円につきこれの未使用であることを証明した上そのように証明された印紙二、〇〇〇円の返還を求めるというにある。

ところで、裁判所の事件受付事務担当書記官は訴状等が裁判所の事件受付に提出されると訴状等の記載自体から判断しうべき形式的記載事項のほかそれの貼用印紙の加不足について調査点検し、欠点を発見したときは提出当事者に対しその欠点を指摘して任意補正を促すべき職責を有し、また、訴状等に貼用された不要もしくは過貼印紙が誤つて消印されたことが明らかな場合にはこれの未使用証明をした上これを返還すべきであるが、これらの訴状等の調査点検が事件受付に際し訴状等を整備明確化させ、もつて当事者に対し無用な時間、労力の費消、経費の負担等をかけないことと、あわせて受付後における事件の審理促進、能率化をはかることを目的とし、訴状の適否について正式の審査権を有する受訴裁判所の裁判長または受訴裁判所の補助としてなされるものであることは民事訴訟法の規定からみて明らかなところである。

すなわち、訴状等に適式な印紙を貼用すべきことは訴提起の適法要件であつて、訴状にいくらの印紙を貼用すべきか、貼用された印紙に過不足があるか等の問題は結局はその訴の審理を担当する受訴裁判所または受訴裁判所の裁判長の判定すべき問題であり、従つてたとえば受付事務担当書記官が訴状受付の際貼用印紙の不足を理由に加貼を促したためこれに応じて印紙を加貼した場合にも、もしそれが訴状に貼用すべき法定の印紙額を超えるものとして不服であるときは、受訴裁判所所属の書記官に加貼印紙未使用の証明及びその返還を求め得るものと解すべきであつて、この場合当該書記官は、受訴裁判所または裁判長の意見に従つて善処すべきであるが、もし、印紙の未使用証明およびその返還を拒絶された場合、これにつき不服のあるものは、その書記官の所属する受訴裁判所に異議を申立てることができ(民訴二〇六条)、その申立を却下する決定に対しては通常抗告ができる。また、訴状の印紙の追貼を命ずる裁判所または裁判長の補正命令に不服なものはその命令に応じない場合に発せられるであろう訴状却下の裁判に対し即時抗告ができる(民訴二二八条)のである。

右のことから分るように、訴状等に貼付すべき印紙の額についての問題は個々の具体的事件につきその事件の受訴裁判所または裁判長が司法権の作用として民事訴訟に関する法令の枠内で決めるべき問題であつて、行政庁としての裁判所がなしうべきことがらではない。

従つて、右の問題に関する東京高等裁判所事件受付係職員の印紙を加貼させた行為を行政庁の処分であるとして行政処分の司法審査を目的とし、行政庁としての被控訴人東京高等裁判所との間で右問題の解決を求めようとする本訴請求は、この点においてすでに不適法であり、この欠缺は補正することができないものであると解される。

二、次に被控訴人国に対する控訴について考えるに、控訴人と同被控訴人との間で原審の判決がなされていないことは本件記録上明らかであるから、同被控訴人を相手方とする本件控訴は不適法であり、この欠缺は補正することができないものであることが明白である。(なお、念のためいえば、控訴人は原審において判決言渡期日が告知されて後、「訴状の訂正申立書」を提出し、「仮りに被控訴人東京高等裁判所に対する請求が容れられないときは、被控訴人国は控訴人に対し金九、〇〇〇円を支払え」との請求を、被控訴人東京高等裁判所に対する本来の請求に追加したい旨申し立てていることが分るが、この追加申立にかかる請求は原審における被控訴人東京高等裁判所に対する本来の請求に対し、主観的に予備的な関係にたつ請求、すなわち、これは被控訴人国を予備的被告とする請求であることがその請求自体明らかであるから、控訴人の原審における右の請求の追加の申立は本来不適法なものであつて許されるべきものではない。)

三、右の次第で控訴人の被控訴人東京高等裁判所に対する請求は却下されるべきものであり、これと結論を同じくする原判決は結局相当であつて同被控訴人に関する本件控訴は理由がなく棄却を免れず、また被控訴人国に関する本件控訴は不適法として却下を免れないものである。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 野本泰 海老隊和衛)

控訴理由

第一点

一、原審は、控訴人が昭和三七年一一月二七日に訴状訂正申立書を提出して、予備的請求を追加したにも拘らず、右同月二八日右申立を却下して、本件訴を却下した。

二、右申立却下の理由は、右申立が判決言渡期日指定後になされたもので失当であるから、これを却下するというのである。

三、原審は、本件訴につき口頭弁論期日を指定せずに判決言渡期日を指定したもので、本件訴につき弁論を開きこれを終結して判決言渡期日を指定したものであるならば、右理由も相当であるかも知れないが、第一回の口頭弁論期日の指定は職権によるものであるから、判決期日言渡後に右申立がなされたとの理由で却下するのは明白に違法である。

四、仮りに、右申立は口頭弁論期日指定を申立てた後になさるべきものであるとしても、右申立には当然に口頭弁論期日指定の申立が包含されているのであるから、これを却下するのは違法である。

第二点

一、仮りに右申立が認められないとしても、原審が本件訴を却下したのは違法であるから、これを取消して、本件訴につき裁判するため、これを東京地方裁判所に差戻さなければならない。

二、原審は、司法権と司法行政権、裁判権と裁判を受ける権利及び判決請求権と訴訟法上の権利などについての意識がないために、違法に本件訴を却下したものと認められる。

三、裁判においては、実体法は裁判規範即ち裁判所が実体的裁判に対して適用すべき規範であるが、手続法である民事訴訟法等は裁判所が実体的裁判をするための行為規範である。従つて、国民は、裁判所に対し、その行為規範が法律に従つて適正に行われることを請求する権利を有するものである。

右請求権は、判決請求権の一内容をなすものである。

四、控訴人は、本件訴を右判決請求権に基づいて提起したものであるから、裁判所は、これを裁判しなければならない。

五、本件判決請求権は本来ならば、その訴訟手続内の上訴による不服申立によつて、是正されるものであるが、現行民事訴訟法は、右不服の申立を認めていないので、国民は当然に独立の訴をもつて、その救済を求めることができるものである。

六、原審は、裁判所がお山の大将で、独善で、且つ専横であつてよいというのである。

換言すれば、裁判所はその訴訟手続においてどんな違法は行為を行つてもよろしいのであるというのであるから誠に誤解と言わねばならない。

訴訟手続は必ず法律に従つて行われねばならないものであると認める。

七、原審は、その理由において、控訴状に貼付すべき印紙額についての不服申立は、印紙の追貼を命ず義判長の補正命令に応じなかつた場合に発せられるであろう控訴状却下命令に対して上訴手続によるべきであると判断しているが、右却下命令に対する上訴方法は、わが国民事訴訟法においては廃止されて存在しないことを知らないのである。

八、原審は、被告が加貼印紙について未使用証明することができないと判断しているが、右は全く誤解であつて、被告は未使用証明をする権限を有すると共に、その義務があるものである。被告は、原告が公法上の不当利得返還請求の訴という無駄な手続をとるまでもなく、未使用証明して、国及び国民の手数を節約することができる権限を有しているものである。御庁は未使用証明について十分研究されることを請求します。

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