東京高等裁判所 昭和37年(ネ)3034号 判決
控訴人らがいずれも敷島興業株式会社の取締役であることは当事者間に争がなく、被控訴人が昭和三十四年七月十三日右敷島興業株式会社に対し被控訴人主張の乗用車一台を、代金を百十八万二百四十円と定め、同会社は内金五千六百円を契約成立と同時に現金で支払い、残金は(イ)金額二十万円満期昭和三十四年九月三十日及び(ロ)金額九十七万四千六百四十円満期同年十一月十五日の約束手形を振出して支払い、被控訴人は右乗用車の所有名義人を敷島興業株式会社の代表取締役岡田宗三個人とし、その使用本拠地を同人の自宅である東京都新宿区四谷三丁目十三番地とする定めで売渡す契約をしたことは、控訴人田中の認めるところであり、控訴人本多との関係においては、原審証人堀江哲雄、同堀内重輔の各証言、右は各証言によつて成立の認められる甲第二号証原審における控訴人本多一男本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によつて認められ、そして右各証人の証言及び成立に争ない甲第三号証によると、被控訴人は即日右乗用車を岡田宗三の所有名義に登録するとともに当時その引渡を了したことを認めることができる。
ところで、前記甲第三号証、前記各証人の証言、右各証言によつて成立の認められる甲第一号証並びに前記本多一男本人の尋問の結果によると、敷島興業株式会社は前記五千六百円の現金及び(イ)の手形金二十万円はこれを支払つたけれども、(ロ)の約束手形金九十七万四千六百四十円は満期にその支払ができなかつたため、被控訴人に懇願して満期を昭和三十四年十一月三十日とする同額の約束手形に書替え被控訴人に差入れたが、遂にその支払もできず、同会社は右手形が不渡となる以前既に取引銀行から取引停止処分をうけたのみならず、係争自動車は同年七月二十三日岡山宗三名義により宮本恒男のため債権額九十万円の抵当権設定の登録をし、更にこれを抹消して同年九月二十二日井野茂夫に対し所有権移転登録を経ており、その他所有不動産も他に移転し、前記手形金九十七万四千六百四十円は全くこれを支払う能力がないことが認められ、右認定を覆すに足りる何らの証拠もない。してみれば被控訴人は係争自動車を敷島興業株式会社に売渡してその所有権を喪失したにも拘らず、その代金の支払を受けるため受領した手形の支払を受け得られず、右手形金九十七万四千六百四十円に相当する損害を蒙つたものといわなければならない。
そして、前段認定の事実からすると、敷島興業株式会社は本件取引当時から資産状態が著しく悪化していたものと推認され(この点に反する原審における控訴人本多一男本人の供述は措信できない)、控訴人らは同会社の取締役である以上、特段の事情のない限りは、同会社の資産状態についてはこれを熟知していたものと解せられるのみならず、敷島興業株式会社は本件乗用車を買入れた直後に債権者に譲渡する予定であつたことが原審における控訴人本多本人の尋問の結果によつて認められるところ、右尋問の結果によれば、控訴人本多は本件売買の交渉に自ら当つたものであり、控訴人田中も本件売買が行われることについては事前にこれを了知していたことが明らかであるから、控訴人らとしては、敷島興業株式会社の資産状態を知るにおいては、本件の取引により被控訴人に損害を及ぼすべきことを慮り、取引成立を避止すべき立場にあつたにも拘らず、控訴人本多は積極的に売買の交渉に当つて取引を成立せしめ、控訴人田中も拱手傍観して取引成立を阻止しなかつたものと認むべきであり、この点において、控訴人らはいずれも取締役の職務を行うことにつき少くとも重大な過失があつたものと認めざるを得ないから、商法第二百六十六条ノ三の規定により、被控訴人に対し損害賠償の責に任ずべきものといわなくてはならない。
(牛山 田中 今村)