大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)467号 判決

成立に争のない甲第九号証の記載と甲第二号証の存在及び原審証人長谷川修の証言によれば、控訴会社代表者矢口は昭和三五年九月二七日頃その知人の娘で子会社の日新開発株式会社に勤務する橋本某女からその兄の知人である前記西川を紹介され本件手形の割引依頼を受けたのであるが、手形関係者が未知のため金融業者として直にこれに応じ得なかつたので、社員の長谷川修に命じてその調査をさせたところ同人は被控訴会社に赴き多田と面接して(但し当時長谷川は多田がその話ぶりから被控訴会社の社長と思つていた)本件手形が正しく作成されて期日に相違なく支払われるものであることを確認し、その旨の書面(甲第二号証、但し同書面が多田の無権限に作成したものであることは後に知つた)を矢口に提出し右の報告をしたので、矢口はこれを信じて割引に応じたものであることが認められる。

右事実によれば控訴人は本件手形につき一応の調査を尽したように見えるけれども、本件約束手形(甲第一号証)を一見すれば振出人名下の印影は巷間に販売されている有合印に類するものであつて前記のように繁華街で相当の営業をしている被控訴会社のような会社の代表者の手形振出に使用される通例の印と甚しく趣を異にすることは取引常識上明らかなところであり、ことに金融業者である控訴会社の代表者矢口としてはこれに疑念を抱くことは容易であつたといわなければならない。当審証人打越常夫、池田真三のこの点に関し右印が三文判であつて一見不審を抱くものである旨の証言は右を裏書するものである。

ところが右矢口において本件手形の割引に応ずる際右印の調査をなしたことは本件に顕われた証拠に照し何等窺えないところでありこの点に関する長谷川の前記調査は形式に過ぎないものとの非難を免れず多田を漫然被控訴会社の代表者と信じたという外はないので、流通におかれるについてその成立が一見疑問視される本件手形について社会常識上相当とされる調査がなされたと評価することができないところである。

してみれば控訴人は作成名義人の名下の印影の成立が取引常識に照し一見してたやすく疑念を生じさせるが故に容易に流通に置かれ難い約束手形の取得者として、不法行為の損害賠償を請求するについて賠償額の算定について斟酌されるべき調査怠慢の過失があるというべきである。

(大場 西川 影山)

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